AIの偽動画やデマを信じ込み、そこから抜け出した。恥ずかしさとさびしさが残る。研究では、孤独な人ほど陰謀論を信じやすい傾向があり、抜けた人は仲間を失うつらさを語っていた

おすすめに次々と流れてくる動画や、AIで作られたらしい映像を見ているうちに、ある「隠された真実」を信じ込んでいた。いまは間違いだったとわかる。けれど、家族に言ったことが恥ずかしく、毎晩のように見ていた動画と、そこで知り合った仲間がいなくなって、ぽっかり穴があいたようにさびしい。そんなときのために、研究でわかっていることと、暮らしの立て直し方を整理します。
3行でわかる
- ドイツとオーストリアで計約3,100人を追った2つの調査では、ふだんから孤独な人ほど陰謀論を信じやすい傾向がありました。信じ込んだ背景には、そのときの状況も関係していると考えられます。
- 陰謀論の集まりから抜けた4人へのインタビューでは、全員が「最初から全部は信じていなかった」と語り、抜けたあとは仲間と居場所を失うつらさがありました。
- 自分を責めるより、見ていた動画との距離をとり、人とのつながりを1つ戻し、確かめ方を学び直すことが立て直しになります。
01 結論から言うとデマを信じ込んでいた自分を、どう受け止めればいい?
信じ込んだのは、あなたの能力が低いからとは言えません。研究では、孤独や大きな出来事が重なった時期にのめり込みやすいことがうかがえます。抜け出せたこと自体が大きな一歩です。
ここでいう陰謀論は、「大きな出来事の裏で、力のある人たちがひそかに悪いことをたくらんでいる」と説明する話のことです。最近は、AIで作られた映像や、それらしい解説動画が、おすすめの仕組みで次々に表示されます。おすすめは、それまでに見た動画をもとに次の動画を選びます。そのため、気づくと同じ話ばかりを見ていた、ということが起こりえます。
一度だまされた経験については、AIの偽画像やデマを本物だと信じてしまい、自分が情けないでもまとめています。この記事では、もう一歩深く、信じる仲間の輪の中にいた人が、そこを離れたあとの立て直しを扱います。
02 研究とデータでわかっていることなぜのめり込み、抜けたあとがつらいの?
孤独な人ほど陰謀論を信じやすい傾向があります。抜けた人は、信じていた話と一緒に、仲間や居場所も失うつらさを語っていました。つらさは、考えが変わったことよりも、つながりを失ったことから来ている面があります。
Bertlichら / マインツ大学(2025年)[2]
新型コロナの流行中に、同じ人に何度も答えてもらう調査を2つ行いました。ふだんから孤独な人ほど、陰謀論を信じやすい傾向がありました。一方、ある時期に孤独が強まると次の時期に陰謀論を信じやすくなる、あるいはその逆、という時間の前後の関係は確かめられませんでした。
対象: ドイツの1,604人(研究1、SNSなどで募集)とオーストリアの1,502人(研究2、人口構成に合わせて集めた調査) / 限界: 新型コロナの時期の調査で、AIで作られた映像は扱っていません。孤独が原因で信じたとまでは言えません。
Matthiasら / マンチェスター・メトロポリタン大学(2025年)[1]
地球平面説などの陰謀論のネット上の集まりで活動し、その後に離れた4人に、深く話を聞いた研究です。のめり込んだ時期には、離婚や親を亡くすなど人生の大きな出来事や、人と会わない孤独な状況が重なっていたことが、本人や周りの人の様子として語られました。集まりの中では、同じ考えを共有することで仲間とのつながりができ、居場所になっていました。4人は全員、最初から全部は信じていなかったと振り返りました。離れるきっかけには、自分の仕事や経験とぶつかる話や、外の人との長い対話が語られました。抜けたあとは、仲間を失うつらさや、残った人からの攻撃への不安が語られました。
対象: 英国の研究者が連絡をとった、陰謀論の集まりを離れた4人 / 限界: 4人だけの聞き取りで、多くの人に当てはまるかはわかりません。AIで作られた映像に絞った研究ではありません。
O'Mahonyら / ユニバーシティ・カレッジ・コーク(2023年)[3]
陰謀論を信じる気持ちを減らす取り組みを調べた25本の研究(計7,179人)をまとめました。効果があったのは全体の約4割で、多くは小さな効果でした。大きかったのは、分析的に考える力や批判的に考える力を育てるものでした。科学と疑似科学の違いを教える3か月の大学の授業では、信じる気持ちが大きく減っていました(d=1.07)。一方、信じる人をばかにする反論の効果は、とても小さいものでした。
対象: 25本の研究、計7,179人 / 限界: 多くは短い実験で、長い期間の効果を調べた研究は1本だけでした。すでに抜けた人の立て直しを調べたものではありません。
3つの研究を合わせると、のめり込んだ背景にはさびしさや大きな出来事があり、抜けたあとのつらさの多くは「つながりを失うこと」から来ていると考えられます。だから立て直しでは、考え方を直すことと同じくらい、暮らしの中の人とのつながりを取り戻すことが大事になります。
03 まだわかっていないことAIの偽動画で信じた場合も、同じように立て直せる?
まだわかっていません。研究の多くは新型コロナや地球平面説などの陰謀論で行われ、AIで作られた映像がのめり込みにどう関わるか、抜けた人がどう立て直すかを多くの人で調べた研究は、ほとんどありません。
- AIで作られた本物そっくりの映像が、信じ込みをどのくらい強めるのか。
- 抜けたあとの孤独や恥ずかしさが、どのくらいの期間続くのか。
- 人とのつながりを取り戻すことが、また信じ込むのを防ぐことにつながるのか(孤独と信じやすさの時間の前後の関係は、確かめられていません)。
- 日本の人で、同じことが起きているのか。
04 今日からできること抜けたあと、暮らしをどう立て直す?
見ていた動画や集まりとの距離をとる、人とのつながりを1つ戻す、確かめ方を学び直す、の3つから始めます。どれも少しずつでかまいません。周りへの説明は短くて十分です。
見ていた動画や集まりと距離をとる
チャンネルの登録や通知を外し、グループから抜けます。研究で話を聞いた人の中には、グループを端末から消して、きっぱり離れた人もいました。似た動画が出てきても、開かずに閉じます。
目安 最初の1回に15分
夜の時間に、人とのつながりを1つ戻す
動画を見ていた時間のうち週1回だけでも、昔の友人への連絡、地域の集まり、趣味の教室など、顔の見えるつながりにあてます。いきなり大勢と会う必要はありません。
目安 週1回30分から
確かめ方を、1つ学び直す
研究のまとめで効果が大きかったのは、科学とそうでないものを見分ける考え方を学ぶことでした。まずは手口を先に知る方法や、検索で確かめるときの注意を1つ読んでみてください。
目安 1回10分
抜けたあとに、元の仲間から個人情報をさらされたり、攻撃されたりしている場合は、違法・有害情報相談センターや法務省の人権相談に相談できます(使い方はこちらの記事)。気持ちのつらさが続くときは、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)でも話を聞いてもらえます。
05よくある質問
陰謀論やデマを信じていた自分は、頭が悪いの?
そうとは言えません。抜け出した人へのインタビューでは、離婚や家族を亡くすなどの大きな出来事や、人と会わない孤独な時期と重なって、のめり込んでいったと語られていました。孤独な人ほど陰謀論を信じやすい傾向も、調査で見られています。だれにでも起こりうることです。
家族や友人に、何と言って謝ればいい?
長い説明より、「あのころ信じていた話は間違っていた。心配をかけてごめん」と短く伝えるだけで十分です。信じていた中身を一つずつ弁解する必要はありません。相手が責めてきても、言い返さずに、時間をかけて関係を戻していけば大丈夫です。
また同じような動画を見てしまいそうで怖い
見ていたチャンネルの登録や通知を外し、同じ話題の動画を見続けない工夫をします。研究のまとめでは、科学とそうでないものを見分ける考え方を学ぶ方法が、信じる気持ちを大きく減らしていました。確かめ方を1つ身につけておくと安心です。
出典
- Matthias C, Benn Y, Harkin B (2025). 'I think youtube's turning me into a flat earther': Social media's role in ex-conspiracy theorists entering and exiting anti-scientific communities. PLOS One, 20(6), e0323436. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0323436
- Bertlich T, Bräscher AK, Germer S, Witthöft M, Imhoff R (2025). Owners of a conspiratorial heart? Investigating the longitudinal relationship between loneliness and conspiracy beliefs. British Journal of Social Psychology, 64(2), e12865. https://doi.org/10.1111/bjso.12865
- O'Mahony C, Brassil M, Murphy G, Linehan C (2023). The efficacy of interventions in reducing belief in conspiracy theories: A systematic review. PLOS One, 18(4), e0280902. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0280902


