配達アプリなど、自動の仕組みが仕事を割り振るギグワークを始めたい。前もって知っておくことは?ベルギーの397人の研究では、主な収入にする人ほど働き方の不安定さが心の不調と結びつき、副業の人では結びつきが見られなかった

スマホのアプリで好きな時間に配達や作業を受けられるギグワーク。始めやすい一方で、仕事の割り振りや報酬、評価をアプリの自動の仕組み(アルゴリズム)が決めるため、「急かされて危ない運転をしないか」「収入が安定するのか」と心配になる人もいます。研究はまだ少ないものの、どんな働き方だと負担が大きくなりやすいかは見えてきています。始める前に決めておけることがあります。
3行でわかる
- ベルギーのギグワーカー397人の研究では、週24時間を超えて主な仕事にしている人ほど、権利や収入の不安定さが心の不調と強く結びついていた。週24時間以下の副業の人では、はっきりした結びつきは見られなかった。
- 中国の配達員320人の研究では、アプリの管理を強く感じる人ほど、信号無視などの危ない行動が多い傾向があった。北米中心の962人の研究では、報酬が自動で決まる度合いが高い人ほど、時間に追われるストレスが強かった。
- 始める前に「週に何時間、主か副か」「報酬・評価・停止のルール」「急かされても守る安全のルール」を決め、時間と収入を記録しておく。
01 結論から言うとギグワークは、心や体に負担が大きい?
働き方しだいで大きく変わります。研究では、ギグワークを主な収入にして長く働く人ほど不安定さの影響を受けやすく、副業として短い時間だけ働く人では結びつきが見られませんでした。ただ、研究の多くは1回きりの調査で、因果はまだわかっていません。
ギグワークとは、アプリなどを通じて1件ずつ仕事を受ける働き方です。料理の配達や送迎のほか、家事の手伝いや在宅での細かい作業もあります。多くの場合、誰にどの仕事を回すか、いくら払うか、評価が下がったときどうするかを、アプリの自動の仕組みが決めています。
この働き方と健康についての研究を集めたまとめ(2025年)では、45本の研究が見つかりました。心身の不調を報告する研究はあるものの、多くは1回きりの調査や聞き取りで、ギグワーカー以外の似た働き手と比べた研究もほとんどありませんでした。そのため、「ギグワークは体に悪い」とも「心配ない」とも、まだ言えません。それでも、負担が大きくなりやすい条件はいくつか見えてきています。
02 研究とデータでわかっていることどんな働き方だと負担が大きくなりやすい?
主な収入にして週24時間を超えて働く人ほど、権利や収入の不安定さが心の不調と強く結びついていました。アプリの管理を強く感じる配達員ほど危ない行動が多く、報酬が自動で決まる人ほど時間に追われていました。
Vandevenneら(2026)[1]
ベルギーのギグワーカー397人を、週24時間を超えて働く「主な仕事」の人と、24時間以下の「副業」の人に分けて調べました。不安定さは、契約の短さ、働き手の団体に入っているか、有給休暇や保険などの権利、時給の低さ、手当、プラットフォームによる研修の有無から測りました。主な仕事の人では、不安定さが強いほど心の状態が悪く、その結びつきは、主に周りの支えの少なさを通じたものでした(仕事のきつさや体の負担を通じた結びつきは向きが予想と逆で、年齢を考えに入れると見られなくなりました)。副業の人では、はっきりした結びつきはありませんでした。
対象: ベルギーで過去6か月にギグワークをした397人(主な仕事129人、副業268人。2022〜23年) / 限界: 1回きりの調査で人数も多くない。どちらが原因かは確かめられていない。
主な仕事の人は料理の配達や送迎が多く、副業の人は学生や、退職などで仕事から離れている人が多い傾向がありました。同じギグワークでも、生活の中でどれだけの重さを占めるかによって、負担のかかり方が違う可能性があります。
Liuら(2025)[2]
中国・長沙の料理配達員320人に2回に分けて調査しました。アプリによる管理が強いほど「アルゴリズムに支配されている」と感じやすく、その感覚や、仕事のいやなことを考え続けることを通じて、信号無視や逆走などの危ない行動が多くなっていました。一方で、仕事の問題を落ち着いて考え直す人では、危ない行動が少なくなる方向の結びつきもありました。
対象: 中国・長沙の料理配達員320人 / 限界: 危ない行動は本人の回答で、実際の事故の記録ではない。中国の配達の仕組みでの結果。
Semujanga・Parent-Rocheleau(2024)[3]
ギグワーカー962人に、報酬がどのくらい自動の仕組みで決まるかを聞きました。自動で決まる度合いが高い人ほど、時間に追われるストレスが強くなっていました。報酬の仕組みがわかりやすいと感じる人は「決め方が公正だ」と感じやすくなりましたが、時間に追われるストレスは軽くなっていませんでした。
対象: 調査会社などを通じて集めたギグワーカー962人(回答者の83.5%がアメリカ在住) / 限界: 1回きりの自己回答の調査。日本の働き手に当てはまるかは確かめられていない。
仕組みがわかれば納得はしやすくなっても、急かされる感覚そのものは残るということです。自動の仕組みによる管理全般の研究は、AIが仕事の割り振りや評価を決めるのは本当?にまとめています。
Margerisonら(2025)[4]
2000年から2024年5月までに出たギグワークと健康の査読論文を集め、45本を整理しました。テーマは、交通の安全、仕事中のけが、心の健康、新型コロナへのかかりやすさなどでした。研究の多くは1回きりの調査か聞き取りで、同じ人を長く追った研究や、ギグワーカー以外の似た働き手と比べた研究が不足していました。
対象: アプリなどを通じた仕事と健康を調べた査読論文 / 限界: 研究の量と質を整理したもので、効果の大きさをまとめて計算したものではない。
03 まだわかっていないこと日本のギグワークでも同じことが起きる?
わかっていません。上の研究はベルギー、中国、北米中心のもので、日本のギグワーカーを長く追った査読済みの研究は今回確認できませんでした。ギグワークが原因で不調になるのか、もともと苦しい人が選びやすいのかも、まだ区別できていません。
- 研究の多くは1回きりの調査で、ギグワークを始めた人の健康が、その後どう変わるかを追った研究は不足しています。
- アプリの仕組みは国や会社ごとに違い、報酬や評価の決め方が変わると結果も変わる可能性があります。
- 週24時間という線は、ベルギーの研究が分析のために決めた区切りです。それより短ければ安全という目安ではありません。
- 危ない行動についての研究は本人の回答にもとづくもので、実際の事故の多さと結びつけた研究はまだ少ない状態です。
04 今日からできること始める前に、何を決めておけばいい?
週に何時間働くか、主な収入にするのか副業かを先に決め、報酬・評価・アカウント停止のルールを読んで保存します。急かされても守る安全のルールを決め、働いた時間と収入を毎回記録します。
「週に何時間・主か副か」を先に決める
研究では、主な収入にして長く働く人ほど負担が出やすくなっていました。始める前に、週の上限時間と、この仕事で生活費のどのくらいをまかなうつもりかを書いておきます。
目安 10分
報酬・評価・停止のルールを読んで保存する
報酬の決まり方、評価が下がるとどうなるか、アカウントが止まる条件、異議を申し立てる方法を、利用規約やヘルプで確かめます。読んだ日付と画面を保存しておくと、ルールが変わったときに比べられます。
目安 30分(始める前に1回)
急かされても守る安全のルールを決める
「信号と一方通行は必ず守る」「雨の日は件数より安全を優先する」など、自分のルールを先に決めます。研究では、アプリに管理される感覚が強いほど危ない行動が増える傾向がありました。
目安 5分
時間と収入を毎回記録する
待ち時間も含めて働いた時間と受け取った金額、移動にかかった費用をメモします。1時間あたりの手取りが見えると、続けるか、時間を減らすかを数字で判断できます。
目安 1回2分
相談できる相手を1人決めておく
同じ仕事をしている知人や家族など、困ったときに話せる相手を決めておきます。研究では、主な仕事の人で周りの支えが少ないことが、心の不調と結びついていました。
目安 5分
「AIで簡単に稼げる」とうたう副業の勧誘は、ギグワークとは別のものです。見分け方は「AIで簡単に稼げる」副業の勧誘は本物?にまとめています。仕事の依頼そのものがAIで減った場合はAIで翻訳やイラストの依頼が減ったを参考にしてください。
05よくある質問
ギグワークは副業なら安心?
研究からは安心とまでは言えません。ベルギーの397人の研究では、週24時間以下の副業の人では、不安定さと心の不調のはっきりした結びつきは見られませんでした。ただ、仕事を自分で決められる度合いが低いことは、心の不調と結びついていました。副業でも、無理な時間や危ない働き方にならないよう自分のルールを決めておくことが大切です。
配達アプリに急かされて、つい急いでしまう。どうすればいい?
急がされても守る安全のルールを、始める前に決めておきます。中国の配達員320人の研究では、アプリに管理されている感覚が強いほど、信号無視などの危ない行動が多い傾向がありました。一方、仕事の問題を落ち着いて考え直す人では、少なくなる方向の結びつきもありました。件数より安全を優先する日を決めておくのも一つの方法です。
報酬の仕組みがわかれば、ストレスは減る?
納得はしやすくなりますが、ストレスが軽くなるとは限りません。ギグワーカー962人の研究では、報酬の仕組みがわかりやすいと感じる人ほど決め方を公正だと感じていましたが、時間に追われるストレスは軽くなっていませんでした。仕組みを知ることと、働く時間や件数を自分で抑えることは、分けて考えます。
ギグワークで体や心の調子を崩したら、どこに相談できる?
体の不調は医療機関に、契約や報酬のトラブルは、お住まいの地域の消費生活センターや労働の相談窓口に相談できます。相談の前に、働いた時間と金額の記録、アプリのルールの画面、やりとりの記録をまとめておくと話が早く進みます。
出典
- Vandevenne, E., Vanroelen, C., Stas, L., & Gevaert, J. (2026). Precarious employment and its relation to mental well-being in the gig economy: comparing main and supplementary workers. Scandinavian Journal of Work, Environment & Health, 52(3), 241–251. https://doi.org/10.5271/sjweh.4278
- Liu, W., Yang, H., & Liu, S. (2025). Algorithmic platform management and risk-taking behavior among Chinese food delivery riders. iScience, 28(12), 114244. https://doi.org/10.1016/j.isci.2025.114244
- Semujanga, B., & Parent-Rocheleau, X. (2024). Time-Based Stress and Procedural Justice: Can Transparency Mitigate the Effects of Algorithmic Compensation in Gig Work? International Journal of Environmental Research and Public Health, 21(1), 86. https://doi.org/10.3390/ijerph21010086
- Margerison, C. E., Joachim, G. E., Michling, T. R., & Johnson, C. Y. (2025). Platform-Mediated Gig Work and Health: A Scoping Review. American Journal of Industrial Medicine, 68(9), 729–739. https://doi.org/10.1002/ajim.70007


