AIを使った詐欺にだまされて、自分を責めてしまう。研究では、恥ずかしさから誰にも話せないことが、支えを得る壁になっていた

AIの声や、有名人の偽動画の広告にだまされた。お金のことと同じくらい、「なんで気づかなかったんだろう」という気持ちがつらいかもしれません。研究では、だまされた人の多くが恥ずかしさや自分を責める気持ちを経験していました。そして、その気持ちから誰にも話せないことが、支えを得る壁になっていました。責められるべきなのは、だました側です。
3行でわかる
- 詐欺の被害のあとに、恥ずかしさや自分を責める気持ちが出るのは、多くの研究で報告されている、よくある反応です。
- 人はAIで作られた動画を見抜くのが苦手で、しかも自分は見抜けると思いがちだと実験でわかっています。注意深い人でもだまされます。
- まず責めずに聞いてくれる人か公的な窓口に話すこと、そして「お金を取り戻します」という連絡にはお金を払わないことが、次の一歩です。
01結論から言うと
自分を責める気持ちは、詐欺の被害者に広く見られる反応で、あなたが弱いからではありません。研究では、恥ずかしさから黙っていると支えを得にくくなっていました。
詐欺は、相手が信じるように作り込まれた犯罪です。AIを使った手口では、声や顔までそれらしく作られます。見抜けなかったのは、注意が足りなかったからとは限りません。
詐欺の被害者の心の影響を調べた21本の研究をまとめたレビューでは、被害者がだまされたことを「自分の失敗」と受け止めやすいと報告されていました。周りにどう思われるかへの不安が、打ち明けることや助けを求めることの妨げになっていました。
この記事は、だまされたあとの「気持ち」を扱います。振り込んだお金の手続きはAIの声の電話で振り込んでしまったときにすることに、顔や声を勝手に使われた被害はディープフェイク被害のあとにすることにまとめています。
02研究とデータでわかっていること
詐欺の被害では、多くの人が気持ちの面でも影響を受けていました。恥や自分を責める気持ちは地域や手口を問わず見られ、人に話せないことが支えを得る妨げになっていました。
英国国家統計局 ONS(2026年3月公表)[5]
2025年3月までの1年間の調査では、詐欺の被害の71%で、被害者が気持ちの面で影響を受けたと答えました。多かったのは、いら立ち(75%)、怒り(49%)、ショック(27%)、自信をなくす・無防備に感じる(23%)でした。恥ずかしさ・きまり悪さ・自分を責める気持ちは、被害の13%で報告されました。また、いろいろな条件をそろえて比べると、大学の学位がある人より、学歴の資格がない人のほうが、被害にあう見込みが低いという結果でした。
対象: イングランドとウェールズに住む16歳以上の世帯調査 / 限界: カードの不正利用のような被害も含むため、「何も影響はなかった」という被害も40%ありました。学歴の差の理由はこの集計からはわかりません。
Whitty, Buchanan(2016)[2]
恋愛を装った詐欺の被害者20人への聞き取りでは、ほとんどの人が自分を責めていて、そう考えなくていいと言ってくれる人はほとんどいませんでした。家族や友人からは、愚かだと思われたり、怒られたりすることが多くありました。周りの反応を恐れて、多くの人が全部を誰にも話していませんでした。家族が支えてくれたのは1人だけで、その支えは回復の助けになっていました。
対象: 主に英国の38〜71歳。お金を取られなかったがだまされた人も含む / 限界: 20人の聞き取りで、AIを使った手口が広まる前の研究です。
Köbis, Doležalová, Soraperra(2021)[4]
210人に、本物とAIで作った偽の動画を16本見せて見分けてもらいました。正解は57.6%で、当てずっぽう(50%)をわずかに上回る程度でした。偽動画への注意を促す文章を読ませても、正解するとお金がもらえるようにしても、成績は上がりませんでした。人は動画を「本物」と判断しがちで、しかも自分の見分ける力を実際より高く見積もっていました。
対象: オンラインで集めた主に英国の参加者 / 限界: 実験用の動画を見分ける課題で、知り合いや有名人を名乗ってお金を求められる場面は調べていません。
Bai, Ho, Sung, Hung, Tsai(2026)[1]
21本の研究をまとめたレビューでは、恥ずかしさと自分を責める気持ちが、地域や手口を問わず中心的な反応でした。こうした気持ちは、つらさが長引くことや家族関係のこじれと関連していました。銀行や警察に届けたときに軽く扱われたり、責められたりすると、つらさが強まり、助けを求めにくくなることも、聞き取りの研究から示唆されていました。
対象: 詐欺の被害を受けた大人 / 限界: 一時点の調査や聞き取りが中心で、どちらが原因かまでは言えません。
Kemp, Erades Pérez(2023)[3]
2019年にEU28か国とアイスランド・ノルウェーで26,735人に聞いた調査では、消費者詐欺の被害者の15.7%がきまり悪さを感じていました。ほかの条件をそろえて比べると、65歳以上の人は、若い年代より怒りやきまり悪さを感じやすいという結果でした。
対象: ヨーロッパの18歳以上 / 限界: 買い物にまつわる詐欺が中心で、被害額が小さいものも多く含みます。
03まだわかっていないこと
AIを使った詐欺の被害者に限って心の影響を調べた研究は、今回の調査では見つかりませんでした。どんな支えが回復に効くかも、まだ確かめられていません。
- AIの声や偽動画が使われた詐欺で、恥や自分を責める気持ちがほかの詐欺より強いのかどうかは、まだわかっていません。
- レビューの著者は、被害のあと心がどう回復していくかを長く追った研究や、支援の効果を確かめた研究が少ないと書いています。
- 研究の多くは欧米やオーストラリアのものです。日本の詐欺被害者の気持ちを調べた公的な数字は、今回確認できませんでした。
04今日からできること
自分を責める言葉を言い換える、1人か1か所にだけ話す、「取り戻します」の連絡にはお金を払わない。この3つは今日からできて、どれも無料です。
「だまされた自分」を「だますように作られた手口」と言い換える
「なんで気づかなかったんだ」と浮かんだら、「本物に見えるように作られていた」と書き直してみます。実験では、注意して見ようとしてもAIの偽動画はほとんど見抜けませんでした。
目安 浮かんだときに1行
責めずに聞いてくれそうな人か、窓口に1か所だけ話す
全員に話す必要はありません。まずは1人、または警察相談専用電話#9110や消費者ホットライン188のような公的な窓口に、起きたことだけを伝えます。話す前に、日時・相手の名乗り・払った額をメモにしておくと、説明が短く済みます。
目安 メモ10分、電話1本
「お金を取り戻します」という連絡には払わない
国民生活センターは、被害回復をうたう二次被害にあう可能性があるとして、不審に思ったら消費生活センター等に相談するよう呼びかけています。聞き取りの研究でも、詐欺だと気づいたあとに、犯人から再び狙われる「第二の波」を経験した人が多くいました。
目安 連絡が来たら、払う前に188へ
家族から責められたら、責めるのは犯人だと伝える
身近な人が被害にあったときも同じです。「どうして」と聞くより、「話してくれてよかった」と返すほうが、本人が次の手続きに進みやすくなります。聞き取りの研究では、家族や友人に理解されないために、多くの被害者が気持ちの対処法を見つけられずにいました。
目安 最初のひとこと
警察相談専用電話 #9110: 緊急でない相談に。電話をかけた地域の警察の相談窓口につながります。事件や身の危険は110番。
消費者ホットライン 188: 近くの消費生活センターなどを案内してくれます。「お金を取り戻せる」という勧誘の相談にも。
お金を払ってしまった直後の手続きは振り込んでしまったときにすること、AIで簡単に稼げるという勧誘は副業の勧誘を見分ける記事で整理しています。恋愛を装う詐欺の手口は、防犯メディアBOHANのマッチングアプリの出会いが詐欺に変わるときで解説しています。
05よくある質問
詐欺にだまされたのは、自分が悪いの?
悪いのはだました側です。詐欺の被害者を調べた研究では、多くの人が自分を責める気持ちを経験していましたが、それは手口が信じさせるように作られているためです。実験では、AIで作った偽の動画を見分けられた割合は57.6%で、当てずっぽうとほとんど変わりませんでした。
頭がいい人や注意深い人は、詐欺にだまされない?
そうとは限りません。英国の調査では、条件をそろえて比べると、大学の学位がある人より学歴の資格がない人のほうが被害にあう見込みが低いという結果でした。偽動画の実験でも、人は自分の見分ける力を実際より高く見積もっていました。
家族に話すと責められそうで、話せない
全員に話さなくて大丈夫です。責めずに聞いてくれそうな1人か、#9110や188のような窓口から始められます。聞き取りの研究では、多くの被害者が恥ずかしさから誰にも全部を話せずにいて、家族が支えてくれた人はその支えが回復の助けになっていました。
「詐欺のお金を取り戻せます」という連絡が来たら?
お金を払う前に、消費者ホットライン188に相談してください。国民生活センターは、被害回復をうたう二次被害にあう可能性があると注意を呼びかけています。
時間がたっても、気持ちが落ち着かない
研究では、詐欺のあとのつらさが、お金の問題が片づいたあとも続くことがあると報告されています。一人で抱えず、身近な人や下の相談窓口に話してみてください。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
出典
- Bai, J., Ho, M. H., Sung, H. T., Hung, C. S., & Tsai, J. H. (2026). Mental health and psychosocial sequelae of fraud victimization: a systematic review. Frontiers in Psychology. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2026.1805536
- Whitty, M. T., & Buchanan, T. (2016). The online dating romance scam: The psychological impact on victims – both financial and non-financial. Criminology & Criminal Justice, 16(2), 176–194. https://doi.org/10.1177/1748895815603773(著者版: https://wrap.warwick.ac.uk/81382/)
- Kemp, S., & Erades Pérez, N. (2023). Consumer Fraud against Older Adults in Digital Society: Examining Victimization and Its Impact. International Journal of Environmental Research and Public Health, 20(7), 5404. https://doi.org/10.3390/ijerph20075404
- Köbis, N. C., Doležalová, B., & Soraperra, I. (2021). Fooled twice: People cannot detect deepfakes but think they can. iScience, 24(11), 103364. https://doi.org/10.1016/j.isci.2021.103364
- Office for National Statistics (2026). Nature of fraud and computer misuse in England and Wales: year ending March 2025. https://www.ons.gov.uk/peoplepopulationandcommunity/crimeandjustice/articles/natureoffraudandcomputermisuseinenglandandwales/yearendingmarch2025
- 国民生活センター「SNSをきっかけとして、著名人を名乗る、つながりがあるなどと勧誘される金融商品・サービスの消費者トラブルが急増」(2024年5月29日) https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20240529_1.pdf
- 警察庁「ご意見、各種相談・情報提供等」(警察相談専用電話 #9110) https://www.npa.go.jp/goiken_index.html
- 消費者庁「消費者ホットライン188」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/local_cooperation/local_consumer_administration/hotline/
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」こころの健康相談統一ダイヤル https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/soudan/tel/


