スマートウォッチや健康アプリの記録を、AIに分析させても大丈夫?研究では健康アプリの88%に利用者のデータを集めうる仕組みがあり、つなぐ前に渡す項目と行き先を確かめる

歩数や睡眠、心拍の記録をAIに見せれば、自分の体調の傾向を言葉で教えてもらえます。便利そうな一方で、毎日の体の記録を外に出すことに、ためらいを感じる人もいるはずです。研究では、健康アプリの多くが外部の会社へデータを渡しうる仕組みを持ち、名前のない活動量の記録でも人を照合できていました。つなぐ前に、渡す項目と行き先を確かめておくと安心です。
3行でわかる
- Google Playの健康アプリ約2万1千本を調べた研究では、88.0%に利用者のデータを集めうるコードが含まれ、多くは外部の会社につながっていました。
- 名前を消した活動量の記録でも、年齢や性別などと組み合わせると、機械学習で大人の94.9%を照合できたという米国の研究があります。
- AIにつなぐ前に、「どの項目を渡すか」「どこへ行き、何に使われるか」「やめ方と消し方」の3つを確かめます。
01 結論から言うと健康の記録をAIに分析させても大丈夫?
使ってよいかは、渡す項目と行き先しだいです。健康の記録は、名前がなくても人を指す手がかりになりうるため、全部をつなぐ前に、必要な項目と使われ方を確かめます。
スマートウォッチや健康アプリには、歩数・睡眠・心拍のほか、体重、生理の周期、服薬の記録まで入っていることがあります。最近は、こうした記録をAIが読み取り、「睡眠が短い週は歩数も少ない」のように説明してくれる機能も増えています。
ただ、AIに分析させるということは、記録をアプリの外へ出すことでもあります。心配なのは「AIだから危ない」ことではなく、記録がどこへ行き、何に使われるかが見えにくいことです。これは、AIが登場する前から健康アプリで指摘されてきた問題でもあります。
この記事は、体の記録をAIにつなぐ前の確かめ方を扱います。心の悩みを相談アプリに書く場合はAIの相談アプリに、心の悩みや体調を書いても大丈夫?にまとめています。
02 研究とデータでわかっていること健康アプリの記録は、どこへ行っている?
健康アプリの多くは外部の会社とつながり、データを渡しうる仕組みを持っていました。名前のない活動量の記録でも人を照合でき、AIによる分析の正確さにも限りがあります。
Tangariら(2021) / BMJ [1]
Google Play(オーストラリア)の医療・健康・フィットネスのアプリ2万991本を調べた研究です。88.0%のアプリに、利用者のデータを集めうるコードが含まれていました。データを集める処理の多くは、アプリを作った会社ではなく、広告や分析を請け負う外部の会社のものでした。
28.1%のアプリには、プライバシーポリシー(個人情報の扱いの説明)がありませんでした。実際に通信を調べると、利用者のデータの送信のうち、ポリシーの説明と合っていたのは47.0%でした。
対象: Android向けの健康関連アプリ2万991本 / 限界: 「集めうるコードがある」ことと「実際に送っている」ことは別です。短い試験の間に利用者の情報を送っていたのは3.9%のアプリで、使い方によって結果は変わりえます。
Grundyら(2019) / BMJ [2]
英国・米国・カナダ・オーストラリアで評価の高い、薬に関するアプリ24本の通信を調べた研究です。24本中19本(79%)が利用者のデータを外部と共有していました。受け取っていたのは55の会社などで、その3分の2は利用者データの分析や広告に関わる会社でした。
共有されていたのは、端末名やメールアドレス、アプリ内で何を調べたかなどでした。著者は、1つ1つは無関係に見える情報も、組み合わせれば名前がなくても利用者を特定しうると指摘しています。
対象: 821本から選んだAndroidアプリ24本(2017年11月時点) / 限界: 調べたアプリは少数で、薬に関するアプリに限られます。AIの機能を調べた研究ではありません。
Naら(2018) / JAMA Network Open [3]
米国の全国調査で、腰につける活動量計を1週間つけた人たちの記録を使った研究です。名前などを消した20分ごとの活動量に、年齢・性別などの属性を組み合わせると、機械学習で大人の94.9%、子どもの87.4%を、同じ人の別の記録と照合できました(2003〜2004年のデータ)。
対象: 米国の全国調査(2003〜2006年)の大人と子ども計1万4,451人 / 限界: 照合する側が、同じ人の別の記録をすでに持っている前提の実験です。
Merrillら(2026) / Nature Communications [4]
Googleの研究者らが、スマートウォッチの記録を読み取って質問に答えるAIを作り、評価した研究です。数字で答えが決まる質問では、正解率は84%でした。計算用のプログラムを書く、結果を見て考え直す、必要に応じて調べるといった仕組みを組み合わせたことで、文章で考えるだけの方法(正解率22%)や、プログラムを1回書くだけの方法(74%)より正確になりました。
開発には、研究や新しい製品・サービスの開発に使うことに同意した利用者3万人の記録をもとに作った、合成のデータが使われました。体の記録が、同意の範囲で製品の開発に使われることがある、という一例です。
対象: 4,000問を超える質問と、合成のスマートウォッチの記録 / 限界: 研究用のAIの評価で、一般向けのAIサービスの正確さを示すものではありません。
Zadushlivyら(2025) / Journal of Medical Internet Research [5]
米国と欧州の生理管理アプリ4つの規約と仕組みを調べた研究です。プライバシーと安全の評価は5点満点で2〜4.5点に分かれ、主な心配点は、IPアドレスの追跡と、広告や宣伝のための外部への提供でした。
対象: 人気の生理管理アプリ4つ(2023年1〜7月に評価) / 限界: 4つのアプリだけの評価で、AIの機能を調べたものではありません。
まとめると、健康の記録は、AIが登場する前から外部の会社に渡りやすいデータでした。AIに分析させる機能は便利ですが、渡し先が1つ増えるという見方で、項目と行き先を選ぶのが現実的です。
03 まだわかっていないことAIにつないだ記録は、実際にどう使われている?
一般向けのAIに健康の記録をつないだあと、記録が実際にどこへ渡り、どう使われているかを外から調べた研究は、今回の調査では見つかりませんでした。
- 紹介した通信の調査は、AIの機能が広がる前のアプリが中心です。AIの分析機能がついたアプリで、同じ傾向があるかはわかっていません。
- 日本で配信されている健康アプリを、同じ方法で調べた研究は見つかりませんでした。
- 一般向けのAIサービスが、健康の記録からどのくらい正確に体調を説明できるかは、研究がまだ少ない段階です。
04 今日からできることAIにつなぐ前に、何を確かめればいい?
渡す項目をしぼり、行き先と使われ方を規約で確かめ、やめ方と消し方を先に知っておきます。生理や持病、服薬の記録は特に慎重に選びます。
渡す項目を、知りたいことに合わせてしぼる
「睡眠の傾向を知りたい」なら睡眠の記録だけ、のように、質問に必要な項目だけを選びます。連携の画面で項目を選べる場合は、すべてにチェックを入れたままにしません。
目安 連携する前に3分
行き先と使われ方を、規約の4か所で探す
「学習に使うか」「保存期間」「外部の会社に渡すか」「削除の方法」の4つを探します。探し方はAIサービスの利用規約が難しくて読めないときにまとめています。説明が見つからないサービスには、敏感な記録を渡さない選択もあります。
目安 1サービス10分
やめ方と消し方を、先に確かめておく
連携を外す画面と、渡したデータを消す方法を、使い始める前にヘルプで確かめます。連携を切ることと、データを消すことは、別の操作になっている場合があります。
目安 5分
生理・持病・服薬の記録は、別に考える
こうした記録は、ほかの人に知られたくない度合いが特に高い情報です。分析に本当に必要なときだけ、期間を区切って渡します。AIに直接書き込む場合も、名前や地域などと重ねない工夫が役立ちます。
目安 渡す前に1分
名前を伏せても絞り込まれる仕組みは名前を伏せてAIに相談すれば、誰の話かはわからない?で、AIに入力した情報の行き先はChatGPTに個人情報や会社の情報を入力しても大丈夫?で整理しています。
05よくある質問
歩数や睡眠の記録くらいなら、AIに渡しても問題ない?
量が少なく見えても、軽く考えないほうが安全です。米国の約1万4千人の記録を使った研究では、名前を消した20分ごとの活動量に年齢や性別などを組み合わせると、機械学習で大人の94.9%を同じ人の別の記録と照合できました。歩数のような記録も、ほかの情報と重なると人を指す手がかりになります。
AIの分析結果は、どのくらい正しい?
研究段階のAIでも、まちがいは残ります。スマートウォッチの記録を分析するAIを作った研究では、数字で答えが決まる質問の正解率は84%でした。10問に1〜2問は外れる計算です。体調の判断は、分析結果だけで決めず、気になる変化は医療機関で相談します。
生理の記録や持病の記録も、AIに分析させていい?
特に慎重に選びたい記録です。米国と欧州の生理管理アプリ4つの規約を調べた研究では、IPアドレスの追跡や、広告のための外部への提供が主な心配点として挙がりました。分析に本当に必要かを考え、必要な期間・項目だけを渡す方法を選びます。
一度つないだ連携は、あとから切れる?
多くのサービスには連携を外す画面がありますが、外せる範囲や、すでに渡したデータの扱いはサービスごとに違います。連携を切ることと、渡したデータを消すことは別の操作になっている場合があるため、両方をヘルプや規約で確かめます。
出典
- Tangari, G., Ikram, M., Ijaz, K., Kaafar, M. A., & Berkovsky, S. (2021). Mobile health and privacy: cross sectional study. BMJ, 373, n1248. https://doi.org/10.1136/bmj.n1248
- Grundy, Q., Chiu, K., Held, F., Continella, A., Bero, L., & Holz, R. (2019). Data sharing practices of medicines related apps and the mobile ecosystem: traffic, content, and network analysis. BMJ, 364, l920. https://doi.org/10.1136/bmj.l920
- Na, L., Yang, C., Lo, C.-C., Zhao, F., Fukuoka, Y., & Aswani, A. (2018). Feasibility of Reidentifying Individuals in Large National Physical Activity Data Sets From Which Protected Health Information Has Been Removed With Use of Machine Learning. JAMA Network Open, 1(8), e186040. https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2018.6040
- Merrill, M. A., Paruchuri, A., Rezaei, N., et al. (2026). Transforming wearable data into personal health insights using large language model agents. Nature Communications, 17, 1143. https://doi.org/10.1038/s41467-025-67922-y
- Zadushlivy, N., Biviji, R., & Williams, K. S. (2025). Exploration of Reproductive Health Apps' Data Privacy Policies and the Risks Posed to Users: Qualitative Content Analysis. Journal of Medical Internet Research, 27, e51517. https://doi.org/10.2196/51517


