名前を伏せてAIに相談すれば、誰の話かはわからない?研究では、名前を消しても年齢や病名などの組み合わせで絞り込まれ、医療相談を想定した模擬実験では8割が5人未満まで絞られた

家族の病気や職場の人間関係をAIに相談するとき、名前を伏せれば誰の話かはわからない、と考える人は多いはずです。ところが研究では、名前がなくても、年齢や住んでいる地域、病名、職業といった情報の組み合わせで、人が絞り込まれていました。大切なのは名前だけでなく、組み合わせを減らすことです。
3行でわかる
- 医師が患者のことをAIに相談する場面を想定した米国の模擬実験では、名前などを消していても、話し進めるうちに8割が5人未満まで絞り込まれました。
- 米国の研究では、15項目の属性がそろえば99.98%の人を正しく特定できると推計され、名前のない活動量のデータも機械学習で照合できました。
- 相談するときは、年齢は年代に、地名は広い地域にぼかし、めずらしい情報ほど出さないことで、手がかりを減らせます。
01 結論から言うと名前を伏せれば、誰の話かわからない?
名前を伏せるだけでは、誰の話かわからなくなるとは限りません。研究では、年齢・地域・病名などの組み合わせで、人が少人数まで絞り込まれていました。
名前や住所のように、それだけで本人がわかる情報を「直接の識別子」と呼びます。一方、年齢や性別、住んでいる市、職業、病名は、1つだけなら当てはまる人がたくさんいます。
ところが、こうした情報も重なるほど、当てはまる人は減っていきます。「50代・女性・○○市・看護師・珍しい病気で通院中」まで重なると、知り合いなら誰のことか見当がつくかもしれません。研究は、この絞り込みが思った以上に速いことを数字で示しています。
この記事は、名前を伏せた相談でも何が手がかりになるのかを扱います。入力した情報の行き先や学習の設定はChatGPTに個人情報や会社の情報を入力しても大丈夫?にまとめています。
02 研究とデータでわかっていること名前がなくても、どのくらい絞り込める?
医療相談を想定した模擬実験では、8割が5人未満まで絞り込まれ、そこまでの情報は中央値で7つでした。15項目の属性がそろえば99.98%を特定できるとの推計もあります。
Weatherheadら(2026) / Frontiers in Digital Health [1]
医師が、名前や番号を消したうえで、患者のことをAIに何回かに分けて相談する場面を想定した実験です。年齢や性別、病名、薬などを1つずつ足していくと、最後には79.9%の模擬患者が、当てはまる人が5人未満のところまで絞り込まれました。
そこまでに必要だった情報は、中央値で7つでした。めずらしい情報を先に出す場合は、中央値で4つでした。著者は、1回ごとの相談で名前を消すだけでは、会話全体での特定の危険は防げないと述べています。
対象: 米国マサチューセッツ州を模した合成の患者データ13万3,262人分から選んだ5,000人(絞り込みは13万3,262人全体の中で計算) / 限界: 実在の人のデータではなく、コンピューターで作った患者データでの計算です。実際の病院のデータで確かめることが今後の課題とされています。
Rocherら(2019) / Nature Communications [2]
名前を消して一部だけ公開されたデータでも、ある人が正しく特定される確率を見積もる方法を作った研究です。米国では、15項目の属性(年齢・性別・住む地域など)がそろえば、99.98%の人が正しく特定されると推計しました。
郵便番号・生年月日・性別の3つだけでも、知られた例で当てはめると、その人がただ1人に絞り込まれる確率は58%でした。属性が少し増えるだけで、特定はすぐにほぼ確実になると著者は書いています。
対象: 米国などの人口・調査・健康のデータ(210の集団) / 限界: 統計の模型による推計で、実際にAIへの相談から特定された例を調べたものではありません。
Naら(2018) / JAMA Network Open [3]
名前などを消した、腰につける活動量計のデータを使った研究です。年齢・性別・学歴・収入など6つの属性と、20分ごとの活動量を組み合わせると、機械学習で大人の94.9%、子どもの87.4%を、同じ人の別の日のデータと照合できました。
ただし、属性を年齢と性別だけにすると、大人で照合できたのは32.0%に下がりました。属性だけでも大人の81.2%を照合でき、活動量は手がかりを上乗せする役割でした。
対象: 米国の全国調査の1万4,451人(2003〜2006年のデータ) / 限界: 照合する側が、同じ人の別の日のデータをすでに持っている前提の実験です。
de Montjoyeら(2013) / Scientific Reports [4]
欧州の小さな国の約150万人について、15か月分の携帯電話の位置の記録を調べた研究です。1時間単位・基地局単位の大まかな位置でも、ある人がいた時刻と場所を4つ知っていれば、95%の人が1人に絞り込めました。2つでも半数を超えました。
対象: 携帯電話会社の匿名化された記録 / 限界: AIへの相談ではなく、位置の記録そのものの研究です。場所や時刻を粗くしても、絞り込める割合はゆっくりとしか下がりませんでした。
まとめると、名前がなくても、ありふれた情報の組み合わせで人は絞り込めます。AIへの相談は、会話の中でこうした情報が自然に積み重なりやすい点に注意が必要です。
03 まだわかっていないこと実際にAIへの相談から特定された例はある?
一般の人がAIにした相談から、本人が特定された例を調べた研究は、今回の調査では見つかりませんでした。研究が示しているのは、絞り込みが起こりうるという可能性です。
- 紹介した研究は、どれも米国や欧州のデータです。日本の人口や地名で、どのくらいの情報で絞り込まれるかは調べられていません。
- AIの会社が入力された内容を、ほかのデータと組み合わせているかどうかは、研究では確かめられていません。
- 相談を読んだ人が、身近な人なら何個の情報で気づくのかを測った研究も見つかりませんでした。
04 今日からできること相談するとき、何をどうぼかせばいい?
名前を消したうえで、年齢・地域・職業・日付をぼかし、めずらしい情報ほど出さないようにします。他人の話は特に、相談に必要な分だけにします。
年齢・地域・職場を「広く」書き換える
「52歳」は「50代」、「○○市」は「関東の市」、「○○病院の看護師」は「医療職」のように、当てはまる人が多い言い方にします。相談の中身は、たいていこれで十分伝わります。
目安 1回1分
めずらしい情報は、本当に必要なときだけ
めずらしい病名や職業、ニュースになった出来事は、それだけで人を絞り込みます。模擬実験では、めずらしい情報から出すと、絞り込みに必要な情報が7つから4つに減りました。
目安 送信前に30秒見直す
1つの会話に、情報を積み上げない
同じ会話で何回もやりとりすると、情報が少しずつ重なります。話題ごとに会話を分け、終わった相談は削除します。前に何を書いたかも、ときどき見返します。
目安 相談ごとに1分
家族や同僚、お客さんの話は、さらに控えめに
他人の病気や家庭の事情は、本人が知らないところで書かれる情報です。必要な分だけにし、仕事で知った情報は、勤め先のルールでAIに入力してよいかを先に確かめます。
目安 書く前に1分
もう書きすぎてしまったと不安なときは、AIに個人的なことを話しすぎて、後から怖くなったときを読んでみてください。文章のくせから書き手がわかるかは、匿名の書き込みでも、AIで自分だと特定される?で整理しています。
05よくある質問
名前を「Aさん」に置き換えれば、AIに相談しても大丈夫?
置き換えは大切な一歩ですが、それだけでは足りないことがあります。医師が患者のことをAIに相談する場面を想定した模擬実験では、名前などを消していても、年齢や病名などを話し進めるうちに、8割の人が5人未満まで絞り込まれました。年齢は年代に、地名は広い地域に、と他の情報もぼかすと手がかりが減ります。
AIの会社が、入力した内容から自分を特定しているの?
そうした事実を示す研究は、今回の調査では見つかりませんでした。研究が示しているのは、名前がなくても情報の組み合わせで人を絞り込めるという「可能性」です。入力した内容がどう保存・利用されるかは、サービスごとの規約で確かめます。読み方はAIサービスの利用規約が難しくて読めないときにまとめています。
歩数や心拍などの健康データも、名前がなければ安心?
名前がなくても安心とは言えません。米国の約1万4千人のデータを使った研究では、年齢・性別・学歴・収入などと20分ごとの活動量を組み合わせると、機械学習で大人の94.9%を照合できました。ただし年齢と性別だけでは32.0%に下がり、どんな情報と組み合わさるかで危険の大きさは変わります。
位置情報は、だいたいの場所なら大丈夫?
大まかでも安心とは言い切れません。約150万人の携帯電話の記録を調べた研究では、1時間単位・基地局単位の大まかな位置でも、4つの時刻と場所で95%の人が1人に絞り込めました。場所を粗くしても、絞り込める人の割合はゆっくりとしか下がりませんでした。
出典
- Weatherhead, J., Hasan, A., Weatherhead, J., Golovko, G., Grant, B., Garcia, J. D., Certuche, H. S., Powell, R. P., Abril, J. M., & McCaffrey, P. (2026). K-anonymity decay in multi-turn clinical large language model conversations. Frontiers in Digital Health, 8, 1832168. https://doi.org/10.3389/fdgth.2026.1832168
- Rocher, L., Hendrickx, J. M., & de Montjoye, Y.-A. (2019). Estimating the success of re-identifications in incomplete datasets using generative models. Nature Communications, 10, 3069. https://doi.org/10.1038/s41467-019-10933-3
- Na, L., Yang, C., Lo, C.-C., Zhao, F., Fukuoka, Y., & Aswani, A. (2018). Feasibility of Reidentifying Individuals in Large National Physical Activity Data Sets From Which Protected Health Information Has Been Removed With Use of Machine Learning. JAMA Network Open, 1(8), e186040. https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2018.6040
- de Montjoye, Y.-A., Hidalgo, C. A., Verleysen, M., & Blondel, V. D. (2013). Unique in the Crowd: The privacy bounds of human mobility. Scientific Reports, 3, 1376. https://doi.org/10.1038/srep01376


