匿名の書き込みや裏アカウントでも、AIで自分だと特定される?研究では、候補が10人なら文体からかなり当てたが、候補が多いほど当たりにくく、決め手は文体より個人情報の組み合わせだった

名前を出さない裏アカウントや、匿名の掲示板、無記名のアンケート。AIが文章のくせまで読めるようになった今、「書いたのが自分だとばれるのでは」と不安になる人は少なくありません。研究を見ると、AIは候補が少ないときには文体から書き手をかなり当てますが、候補が多いほど当たりにくくなります。むしろ、人を一人にしぼり込む決め手になりやすいのは、生年月日や地域といった個人情報の組み合わせでした。
3行でわかる
- 2024年の研究では、候補10人のブログの文章で、AIは文体の手がかりを指示されると書き手を高い精度で当てましたが、候補20人では精度が下がりました。
- 数千件の候補から探す2026年の研究では、上位20件に同じ人の別の文章が入った割合は44%で、偶然よりはるかに高い一方、半分以上は外れていました。
- 名前のないデータでも、生年月日・地域・性別などの項目が重なると一人にしぼられやすく、匿名を守る鍵は「同じ情報を重ねて書かない」ことです。
01 結論から言うと匿名の書き込みは、AIで特定される?
候補が少なければ文体から当てられることがあり、完全な匿名は保証されません。ただ候補が多いほど当たりにくく、今の研究を並べると、文体よりも個人情報の組み合わせのほうが人を一人にしぼり込みやすいと考えられます。
書いた人を文章から当てることを、研究では「著者の特定」と呼びます。言葉の選び方、句読点の打ち方、誤字のくせなど、本人も気づかない特徴を手がかりにする方法です。AIの登場で、この作業が以前より手軽になってきました。
一方で、特定のしやすさは条件で大きく変わります。決め手になるのは、①候補が何人いるか、②同じ人の文章がほかにどれだけあるか、③文章に年齢・地域・学校などの情報が書かれているか、の3つです。投稿の内容から性格や考え方を推測される話はSNSの投稿から性格を当てられるかの記事で扱いました。この記事では「書いたのは誰か」を当てられるかを整理します。
02 研究とデータでわかっていること文体と個人情報、どちらで特定されやすい?
候補が10人ほどなら、AIは文体から書き手をかなり当てました。候補が数千件になると当たる割合は下がりますが、偶然よりははるかに高くなります。名前がなくても、数項目の個人情報が重なると多くの人が一人にしぼられていました。
Huangら(2024, Findings of EMNLP)[2]
ブログとメールの文章を使い、AIに「この文章を書いたのは候補のうち誰か」を当てさせました。句読点、助動詞、珍しい単語、誤字など、見るべき文体の特徴を指示したところ、候補10人のブログで精度(F1値)86.67%、メールで90.00%となり、従来の方法を上回りました。指示なしでは36.67%でした。候補を20人に増やすと、ブログでは62.50%に下がりました。
対象: 英語のブログとメール。各条件で10〜20件の文章を3回ずつ試した小規模な実験 / 限界: 正解の書き手が必ず候補に入っている設定です。著者らは、SNSや大きな掲示板のように候補が膨大な場面で精度が保てないことを「大きな限界」と述べています。
ZhangとZhang(2026, ACL)[3]
学会の匿名の査読コメント14万7,367件を使い、AIで同じ人が書いた別のコメントを探す方法を試しました。候補を数千件にしぼってから勝ち抜き戦の形で比べると、上位5件に同じ人の文章が入った割合は28%で偶然の約1,000倍、上位20件では44%でした。英語のブログでは、上位20件に入る割合が94%に達しました。
対象: 英語の査読コメント(2023〜2025年)、ブログ、メール / 限界: 査読コメントでの確認は9人の協力者による25例のみです。見つかるのは「同じ人の別の文章」で、名前そのものではありません。56%は上位20件に入りませんでした。
Rocherら(2019, Nature Communications)[1]
名前を消したデータでも、ほかの項目の組み合わせで一人にしぼれるかを調べました。米国の約300万人のデータでは、生年月日・地域・婚姻状況・性別の4項目だけで78.7%の人がほかの人と区別できました。米国マサチューセッツ州のデータをもとにした推定では、15項目あれば99.98%の人が一人にしぼられるとされました。著者らは、データの一部だけを公開しても「自分ではない」と言い逃れる余地は小さいと結論しています。
対象: 米国の国勢調査の公開データ(約300万人)など5つのデータ / 限界: 統計モデルによる推定で、実際に誰かを特定した実験ではありません。文章ではなく、年齢や地域などの表の形のデータの研究です。
Nyffeneggerら(2024, Findings of NAACL)[4]
名前を伏せて公開されたスイスの最高裁判所の判決7,673件で、AIが当事者を特定できるかを試しました。特定できたのは専門のモデル2つによる1人だけで、著者らは汎用のAIは判決から個人を特定できなかったと述べています。一方、関連するニュース記事を手がかりとして与えた7件では、AIが5件で当事者を当て、そのうちフルネームまで当てたのは1件でした。
対象: 2019年のスイスの判決、名前を伏せたウィキペディアの伝記など / 限界: 著者らは「今のところほとんどの場合リスクは小さい」としつつ、多くの手間をかける相手なら危険が高まると警告しています。
4つの研究を合わせると、AIによる特定は「文章だけ」より「文章+外の手がかり」で強くなる傾向が見えます。特に判決の研究では、ニュース記事という外の情報を与えたときに当たる件数が増えました。同じ情報を別の場所にも書いていると、それが外の手がかりになります。
03 まだわかっていないこと日本語のSNSでも同じ結果になる?
まだわかっていません。紹介した研究は英語の文章やスイスの判決などが対象で、日本語のSNSや掲示板で文体からの特定を試した査読つきの研究は、今回の調査では見つかりませんでした。AIの性能も年ごとに変わります。
- 日本語の短い投稿で、AIが文体から書き手をどのくらい当てられるか。今回の調査では見つかりませんでした。
- 候補が数十万人以上いる実際のSNSで、文体だけで個人を特定できる割合。研究の多くは候補をしぼった条件です。
- 新しいAIで、精度がどこまで上がるか。紹介した数字は、それぞれ発表時点のAIのものです。
- 文章の書き方を変える、時間をずらすなどの工夫が、実際に特定を防ぐか。確かめた研究はまだ少数です。
04 今日からできること匿名のアカウントを守るために何ができる?
文体を隠すより、個人情報を重ねて書かないことが先です。プロフィールと過去の投稿を見直し、本アカウントと同じ情報や同じ文章を書かないようにします。どれも無料で、1回10〜20分でできます。
次の工夫は、研究で特定の決め手になっていた「個人情報の組み合わせ」と「外の手がかり」を減らす方向で選びました。工夫そのものの効果を試した研究ではない点に注意してください。
プロフィールの項目を数える
匿名のアカウントのプロフィールと固定の投稿に、年齢・誕生日・住んでいる地域・学校や職場・家族構成など、何項目書いてあるかを数えます。研究では4項目でも多くの人が区別できました。必要のない項目から消します。
目安 10分
本アカウントと同じ話・同じ文章を書かない
同じ出来事を両方のアカウントに書く、同じ文章をコピーして載せる、といったことを避けます。同じ人の別の文章は、AIが結びつける手がかりになります。過去の投稿で重なっているものがあれば、片方を消します。
目安 過去の投稿の見直し20分
写真と時間の手がかりも見直す
文章だけでなく、写真の背景や投稿した時間も外の手がかりになります。写真の確かめ方は身バレのあとの立て直しの記事に、写真や声の公開範囲は写真や声がAIの学習に使われる不安の記事にまとめています。
目安 月1回15分
匿名でも「書いたら残る」前提で書く
研究が示すのは、匿名は完全には保証されないということです。人を傷つける内容や、知られて困る内容は、匿名でも書かないことが一番の守りになります。
目安 投稿の前に10秒
05よくある質問
文章のくせだけで、AIに誰が書いたかわかる?
候補が少なければ当たることがあります。2024年の研究では、候補10人のブログの文章で、AIは文体の手がかりを指示されると高い精度で書き手を当てました。ただ候補が20人に増えると精度は下がり、ネット全体のように候補が膨大な場面で精度を保てるかは「大きな限界」だと、著者ら自身が述べています。
本アカウントと裏アカウントの文章が似ていたら、つながりがばれる?
可能性はあります。2026年の研究では、数千件にしぼった候補の中から、同じ人の別の文章を上位20件に含められた割合が44%でした。文体に加えて、学校名や地域、誕生日など同じ情報を両方に書いていると、結びつけやすくなります。
名前を出していなければ、匿名のデータは安全?
名前がなくても安全とは限りません。2019年の研究では、生年月日・地域・婚姻状況・性別の4項目だけで、ある米国の集団の78.7%がほかの人と区別できる状態でした。項目が増えるほど、匿名のデータでも一人にしぼられやすくなります。
AIに文章を書き直させれば、特定されにくくなる?
確かなことは言えません。書き直しで特定を防げるかを確かめた研究はまだ少なく、この記事で紹介した研究でも調べられていません。また、書き直しのために個人的な文章をAIに入力すること自体が、情報を渡すことになります。
出典
- Rocher L, Hendrickx JM, de Montjoye YA (2019). Estimating the success of re-identifications in incomplete datasets using generative models. Nature Communications, 10, 3069. https://doi.org/10.1038/s41467-019-10933-3
- Huang B, Chen C, Shu K (2024). Can Large Language Models Identify Authorship? Findings of the Association for Computational Linguistics: EMNLP 2024, 445–460. https://aclanthology.org/2024.findings-emnlp.26/
- Zhang L, Zhang H (2026). De-Anonymization at Scale via Tournament-Style Attribution. Proceedings of ACL 2026 (Long Papers), 32270–32283. https://aclanthology.org/2026.acl-long.1489/
- Nyffenegger A, Stürmer M, Niklaus J (2024). Anonymity at Risk? Assessing Re-Identification Capabilities of Large Language Models in Court Decisions. Findings of the Association for Computational Linguistics: NAACL 2024, 2433–2462. https://aclanthology.org/2024.findings-naacl.157/


