学習アプリやAIの分析で、成績や「つまずきそう」と判断されるのが不安。研究では、予測が当たったのは平均7割ほどで、学生は何のデータを何に使うかを知りたがっていた

学習アプリやオンラインの教材には、開いた回数や解いた問題、提出の時刻などが記録されます。その記録をAIなどで分析し、「この生徒はつまずきそう」と予測したり、評価の材料にしたりする仕組みが広がっています。知らないうちに点数をつけられているようで落ち着かない、という気持ちは自然なものです。研究でわかっていることと、自分で確かめられることを整理します。
3行でわかる
- 学習の記録から成績を予測する研究では、当たったのは平均で7割ほどでした。外れる人がいて、外れやすさは学生の集団によって違うこともありました。
- 学生への聞き取りでは、多くは仕組みをよく知らず、先生に先入観を持たれること、プライバシー、同意の取り方を心配していました。
- 今日できるのは、何のデータを何に使うかを先生に聞くこと、予測を結論と受け取らないこと、アプリに残らない学びを自分で記録しておくことです。
01 結論から言うと学習アプリの分析で、成績は決まるの?
学習の記録からの予測は、当たることもあれば外れることもある「目安」です。研究では、予測が当たった割合は平均で7割ほどでした。予測をどう使うかは学校や授業しだいなので、まず使い道を確かめるのが出発点です。
こうした分析は「ラーニング・アナリティクス(学習の記録の分析)」と呼ばれます。学習管理システム(課題の提出や教材の配布に使う学校のサイト)や学習アプリに残る操作の記録を集め、つまずきそうな生徒を早く見つけて支えることが、主なねらいとされています。[1][4]
ただし、予測はあくまで記録の傾向から出した見込みです。アプリの外で勉強した時間や、先生に直接質問したことのように、記録に残らない学びもあります。予測が出ても、それだけで自分の力が決まったわけではありません。
先生がAIで答案を採点する場合の話はAIの点数は人と同じ?、AIの採点に納得できない気持ちは先生の採点やコメントがAIだったら、納得できない?で扱っています。この記事は、答案ではなく「学習の記録」の分析を扱います。
02 研究とデータでわかっていること記録からの予測は、どのくらい当たる?
大学の授業の成績を記録から予測した研究をまとめると、正解率は平均71.6%でした。生物学の授業での例では、学生の集団によって当たり方に差がありました。学生は、データの使い道と同意の取り方を気にしていました。
Arizmendiら(2023)[1]
学習管理システムなどの記録から、大学の1つの授業で成功するかを予測した論文を調べ、39本から82のモデルを集めました。報告された正解率の平均は71.6%でした。自分たちの例では、大学の生物学入門の授業の学生の、最初の4週間の操作の記録(資料のダウンロード、課題の提出、質問の予約など)から期末試験の成績を予測しました。正解率は75%で、成績が振るわなかった学生のおよそ4人に3人を見つけられました。一方で、家族で初めて大学に進んだ学生では正解率が65%にとどまり、著者らは予測の欠点だとしています。
対象: 大学の授業の予測研究39本と、生物学の授業の学生353人(予測の確かめに使ったのは88人) / 限界: 大学生の研究で、小中高校の学習アプリや生成AIの分析を調べたものではない。
Robertsら(2016)[2]
大学生と大学院生41人が、4つのグループで学習の記録の分析について話し合いました。初めは多くの学生が、仕組みをよく知りませんでした。説明を受けたあとは、つまずいたときに先生から個別に声をかけてもらえるなら助かる、という声もありました。最も大きな心配は、先生が分析の結果から先入観を持ち、接し方が変わることでした。プライバシーへの踏み込み、入学時の書類だけでは本当の同意にならないこと、参加を選べる仕組みの必要性も挙がりました。
対象: オーストラリアの大学の18〜47歳の41人(多くは心理学の学生) / 限界: 話し合いをまとめた質的な研究で、どのくらいの割合の学生がそう考えるかはわからない。
Corrin(2021)がまとめた、IfenthalerとSchumacher(2016)の研究[3]
ドイツの大学の学生330人に、3種類の学習の分析の仕組みを見せました。多くの学生が、いちばん幅広い情報と個別のフィードバックをくれる仕組みを選びました。一方で、在籍の情報や、やる気・学び方のテストの結果は出してもよいとした人が多かったものの、操作の記録を出すことには消極的で、個人的な情報にはさらに消極的でした。ほしい仕組みと、出してもよいデータが食い違っていたことになります。
対象: ドイツの大学生330人 / 限界: 元の論文ではなく、別の研究者による紹介の論文から確認した内容。
Paolucciら(2024)[4]
幼稚園から高校までの学習の記録の分析について、47本の文献をまとめたレビューです。一人ひとりに合わせた指導などの利点が挙がる一方、成果が上がった証拠が足りないという見方もありました。心配として、プライバシーの侵害や、先生によるデータの読み違いが挙がっていました。理由の説明なしに「つまずきそう」と分類されること、狭い指標だと恵まれない環境の生徒ほどそう分類されやすいことも指摘されています。そう分類されると、自分はできないと思い込み、努力が減ったり不安が増したりするおそれがある、とレビューは述べています。
対象: 幼稚園から高校までを扱った文献47本 / 限界: 文献をまとめたもので、分類された生徒への影響を数で示したものではない。
研究をもとに、学習の記録の分析で「わかりやすいこと」と「わかりにくいこと」を整理しました。
| 記録に残りやすい | 記録に残りにくい |
|---|---|
| アプリや学校のサイトを開いた回数・時刻 | 紙の教科書やノートで勉強した時間 |
| 課題の提出の有無と時刻 | 友達や家族と教え合ったこと |
| アプリの問題の正誤 | 先生に直接質問したこと(予約の記録がある場合を除く) |
右の列が多い学び方の人ほど、記録だけでは姿が見えにくくなります。レビューも、データの集め方の限界が、学習者の全体像を映さないことにつながると指摘しています。[4]
03 まだわかっていないこと日本の学校の学習アプリでも同じ?
今回確認できた研究は主に海外の大学や学校のもので、日本の小中高校の学習アプリの予測がどのくらい当たるかを調べた研究は見つかりませんでした。生成AIで記録を分析した場合の正確さも、まだわかっていません。
- 日本の学校で使われている学習アプリが、どんな記録を集め、成績や評価にどう使っているかを広く調べた研究は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。今回は国内の公的資料も確認できていません。
- 生成AIに学習の記録を読ませて助言や評価をする仕組みが、従来の予測より当たるのかは、まだ研究が少ない段階です。
- 「つまずきそう」と分類されたことで、生徒のやる気が実際にどのくらい変わるかを数で確かめた研究は、今回は見つかりませんでした。
04 今日からできること記録の分析が不安なとき、何ができる?
何のデータを何に使うかを先生に聞き、予測は「目安」と受け取り、記録に残らない学びは自分で書き留めておきます。どれもお金はかからず、最初の確認は10分ほどでできます。
「何を集めて、何に使うか」を3つの質問で聞く
先生や学校に、①アプリにどんな記録が残るか、②その記録は成績や評価に入るか、③誰が見られるか、の3つを聞きます。研究でも、学生はデータで何をするのかをきちんと説明してほしいと話していました。[2]
目安 10分(質問を書いて渡すだけでもよい)
「つまずきそう」の表示は、予測として受け取る
表示が出たら、どの記録(提出の遅れ、開いた回数など)が元になったかを確かめます。研究の例では予測の正解率は75%で、4人に1人ほどは外れていました。[1] 外れていると思えば、その理由を先生に伝えてかまいません。
目安 5分
アプリに残らない学びを、自分で書き留める
紙で解いた問題、教え合ったこと、質問したことを、ノートに日付と一行で残します。先生と話すときの材料になり、自分の学び方を見直すきっかけにもなります。
目安 1日2分
個人のアプリなら、規約で「集める記録」を探す
自分で入れた学習アプリは、プライバシーポリシーで、集める情報と第三者に渡すかを確かめます。探し方はAIサービスの利用規約が難しくて読めないにまとめています。
目安 15分
試験中にAIで監視される場合の備えは、オンライン試験のAI監視で、不正を疑われないか不安を見てください。
05よくある質問
学習アプリの記録で、成績が自動で決まるの?
研究で扱われている多くの仕組みは、成績を決めるものではなく、つまずきそうな生徒を早く見つけるための予測です。ただし、記録をどう評価に使うかは学校や授業しだいなので、先生に確かめるのが確かです。
AIの「つまずきそう」という判定は、どのくらい当たる?
大学の授業の予測研究39本・82のモデルをまとめると、正解率の平均は71.6%でした。生物学の授業の例では75%で、家族で初めて大学に進んだ学生では65%と低めでした。外れることがある目安として受け取るのが妥当です。
学習の記録を分析されるのを断れる?
断れるかどうかは、学校やアプリの決まりしだいです。研究では、学生が参加を選べる仕組みや、きちんとした説明と同意を求める声が挙がっていました。まず、何に使うのか、使わない選択ができるのかを先生に聞いてみてください。
先生に記録を見られて、先入観を持たれないか心配。
オーストラリアの大学の聞き取りでも、最も大きな心配はその点でした。アプリに残らない学びを自分で書き留めておき、先生と話すときに見せると、記録だけでは見えない姿を伝えられます。
出典
- Arizmendi CJ, Bernacki ML, Raković M, et al. (2023). Predicting student outcomes using digital logs of learning behaviors: Review, current standards, and suggestions for future work. Behavior Research Methods, 55(6), 3026–3054. https://doi.org/10.3758/s13428-022-01939-9
- Roberts LD, Howell JA, Seaman K, Gibson DC (2016). Student Attitudes toward Learning Analytics in Higher Education: "The Fitbit Version of the Learning World". Frontiers in Psychology, 7, 1959. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2016.01959
- Corrin L (2021). Shifting to digital: a policy perspective on 'Student perceptions of privacy principles for learning analytics' (Ifenthaler & Schumacher 2016). Educational Technology Research and Development, 69(1), 353–356. https://doi.org/10.1007/s11423-020-09922-x
- Paolucci C, Vancini S, Bex RT II, et al. (2024). A review of learning analytics opportunities and challenges for K-12 education. Heliyon, 10(4), e25767. https://doi.org/10.1016/j.heliyon.2024.e25767


