納品した作品に「AIを使っただろう」と言われ、支払いや修正を求められた。研究では判定ツールも人の目も誤りが多く、直後は取り決めの文面と制作の記録で答える

イラストや文章を納品したあと、「これAIで作りましたよね」と言われ、支払いを保留された。全部描き直してほしいと言われた。突然のことで、謝るべきか言い返すべきか迷う人は少なくありません。研究では、AIかどうかの判定は、ツールでも人の目でも誤りが多いことがわかっています。直後にやることは、言い分の勝ち負けより、取り決めの文面と制作の記録をそろえ、文書で一度答えることです。
3行でわかる
- 7つの判定ツールは、英語を母語としない人が書いたエッセイを、平均61.3%の割合で「AIが書いた」と誤りました。ツールによって、同じ文章につく数字も大きく違いました。
- 人の目も当てになりません。論文を読んだ専門家5人は、人が書いた30本のうち13本を「AI」と判定しました。絵の見分けも平均54.9%で、偶然の50%をわずかに上回る程度でした。
- 直後は、やりとりと取り決めの文面を保存し、制作途中の記録をそろえて、文書で一度だけ答えます。支払いや作り直しの求めに納得できないときは、相談先を使います。
01 結論から言うと納品後にAI使用を疑われたら、まず何をする?
すぐに謝ったり作り直したりせず、相手の連絡と取り決めの文面を保存してから、制作途中の記録を集めます。判定ツールや見た目の印象は誤りが多いので、答える材料は「どう作ったか」の記録と、最初に何を約束したかです。
疑われた直後は、支払いが止まる不安から、相手の求めをそのまま受け入れたくなるものです。ただ、作り直しに応じたあとで「やはりAIだった」と言われると、説明の機会を失ってしまいます。
最初の1日でやることは、次の3つにしぼれます。
- 相手の連絡を、日時がわかる形で保存する
- 発注のメール・発注書・契約書から、AIの使用と納品物についての取り決めを探す
- ラフ・下書き・途中の保存など、制作の記録を消さずに集める
SNSやコンテストで、見ず知らずの人から疑われた場合の対応は「自分で描いた絵を「AIだ」と疑われた」にまとめています。この記事は、お金と取引が関わる、依頼主から疑われた場面の話です。
02 研究とデータでわかっていること判定ツールや人の目で、AIの作品は見分けられる?
確実には見分けられません。研究では、判定ツールが人の文章を「AI」と誤る割合が条件によって高く、ツールごとの数字の差も大きいものでした。人の目による判定も、文章では偶然と変わらず、絵では偶然をわずかに上回る程度でした。
Liangら(2023)[1]
広く使われている7つの判定ツールに、中国のネット掲示板から集めた、英語の試験(TOEFL)のエッセイ91本と、米国の中学2年生のエッセイ88本を判定させました。米国の生徒のエッセイはほぼ正しく判定された一方、英語を母語としない人のエッセイは、平均61.3%が「AIが書いた」と誤判定されました。
7つすべてのツールが「AI」と判定したエッセイが19.8%あり、少なくとも1つのツールが「AI」としたエッセイは97.8%にのぼりました。7つすべてが「AI」としたエッセイは、言葉の選び方が予測しやすい文章でした。
対象: 人が書いた英語のエッセイ179本 / 限界: 2023年時点のツールでの結果です。日本語の文章やイラストでの誤判定の割合を示したものではありません。
Chengら(2025)[2]
医療シミュレーションの論文30本の序文を、人が書いたまま、AIで軽く直した、AIで大きく直した、AIが書いた、などの5つの条件にして、3つの無料の判定ツールと5人の専門家の読み手に判定させました。
ツールは条件の差をおおむね見分けましたが、数字はツールによって大きく違いました。AIで軽く直した文章は、ツールによって平均3.0%〜24.8%と判定されました。人の読み手の正答率は全体で19%で、5つから選ぶ偶然の20%と変わりませんでした。また、人が書いた文章のうち「混ざっている」以外の判定がついた18本中13本(72.2%)を「AI」と判定しました。
対象: 英語の論文の序文と、シミュレーション教育の専門家5人 / 限界: 読み手はAIの文章の見分け方の訓練を受けていません。調べたのは3つのツールだけで、ほかのツールでは結果が変わりえます。
Huangら(2026)[3]
人が描いた絵と、それに似せてAIが作った絵を6組見せ、どちらがAIかを選んでもらいました。正しく選べた割合は平均54.9%でした。2つの組では、人が描いた方を「AIだ」と選んだ人が60.1%と67.4%で、多数派がまちがえていました。
対象: 中国のオンライン調査に回答した356人(2025年3月) / 限界: 6組の絵だけの調査です。依頼主のように、作品をよく見る立場の人での精度はわかりません。
Bellaicheら(2023)[4]
実際にはすべてAIが作った絵に、「人が作った」か「AIが作った」の表示をランダムに付けて評価してもらいました。「AIが作った」と表示されると、好き・美しさ・深み・価値のすべてで評価が下がり、差がいちばん大きかったのは価値(d=0.61)でした。
対象: ネット調査サービスで集めた150人 / 限界: 表示だけを変えた実験です。依頼主が支払いをどう判断するかを調べたものではありません。
依頼主が「AIかどうか」を重く見るのは、研究のとおり、AIの作だと思うだけで作品の価値が低く見えやすいからかもしれません。一方で、その「AIだと思う」判断そのものは、ツールでも人の目でも誤りが多いものです。研究を、依頼主から言われやすい言葉に当てはめると次のとおりです。
| 依頼主の言い分 | 研究でわかったこと |
|---|---|
| 判定ツールで「AI」と出た | 人の文章でも条件によって誤判定が多く、ツールごとに数字が大きく違った[1][2] |
| 見ればAIだとわかる | 人の目の判定は、文章では偶然と変わらず、絵でも偶然をわずかに上回る程度だった[2][3] |
| AIなら同じ金額は払えない | 「AIが作った」と思うだけで価値の評価が下がった[4] |
03 まだわかっていないこと制作の記録を見せれば、依頼主は納得する?
まだわかっていません。依頼主と作り手のあいだでAI使用が疑われたとき、どんな説明や記録が納得につながるかを調べた研究は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。
- 判定ツールの研究の多くは英語の文章です。日本語の文章や、イラスト・音楽の判定ツールがどのくらい誤るかは、まだ十分に調べられていません。
- 判定ツールも生成AIも更新が速く、研究の数字は当時のものです。今のツールの精度は、研究からはわかりません。
- AI使用の疑いをめぐる取引のトラブルが、どのくらい起きているかを数で示した公的な調査は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。
04 今日からできること支払いや作り直しを求められたら、どう動く?
連絡と取り決めの文面を保存し、制作の記録をそろえ、文書で一度だけ答えます。合意できないまま支払いが止まるときは、自分だけで判断せず、フリーランス向けの公的な無料相談などに相談します。
連絡と取り決めの文面を、ひとつのフォルダに保存する
依頼主からの連絡、発注のメール、発注書や契約書を集めます。AIの使用について決まりがあったか、何を納品する約束だったか、支払いの時期はいつかの3点に印をつけます。
目安 30分
制作の記録をそろえ、見せる範囲を決める
絵ならラフ・レイヤーの一覧・途中の保存、文章なら下書きや変更の履歴を集めます。見せるのは確認に必要な範囲にとどめ、元データそのものは渡す条件を文書で決めてからにします。
目安 30分〜1時間
文書で一度、事実と材料と確認したいことを書く
「AIは使っていません。制作途中の記録を添えます」のように事実を短く書き、判定ツールが根拠なら、どのツールで何%と出たか、どの部分かを尋ねます。支払いの時期と、作り直しの範囲・費用の扱いも文書で確認します。
目安 返信1回、30分
合意できなければ、相談先に持ち込む
支払いの保留や無償の作り直しの求めが法律に当たるかは、取引の形で変わります。1〜3でそろえた文面と記録を持って、フリーランス向けの公的な無料相談や、法律の相談窓口に相談します。
目安 相談1回
フリーランスの取引を守る法律の中身と相談先は「AIで翻訳やイラストの依頼が減った」に整理しています。次の依頼から、AIの使い方を先に取り決めておく方法は「共同制作やサークルで、AIを使うかのルールは先に決めたほうがいい?」が参考になります。作業の一部にAIを使っていたことが知られた場合は「AIを使ったことを伏せて投稿した作品が知られ、批判された」もあわせて読めます。
事業者から受けた仕事の報酬や作り直しのトラブルを無料で相談できる公的な窓口と、法律の相談先がわからないときの窓口は、「AIで翻訳やイラストの依頼が減った」の相談先の欄にまとめています。電話番号と受付時間は、各窓口の公式ページで最新のものを確かめてください。
05よくある質問
判定ツールで「AIの可能性が高い」と出たら、支払いを止められても仕方ない?
判定ツールの数字だけで決まるものではありません。研究では、英語を母語としない人のエッセイを判定ツールが平均61.3%の割合で「AI」と誤り、ツールによって同じ文章の数字も大きく違いました。どのツールで何%と出たのかを文書で尋ね、制作の記録と取り決めの文面をそろえて答えます。支払いの扱いが法律に当たるかは、相談先で確かめられます。
実は、作業の一部にAIを使っていた。どう答えればいい?
まず、発注時の取り決めにAIの使用についての決まりがあったかを確かめます。そのうえで、どの工程でどう使い、どこを自分で作ったかを正直に整理して伝えます。隠したまま話を進めると、あとで知られたときに説明がより難しくなります。取り決めに反していたかどうかの判断に迷うときは、相談先を使えます。
元のデータや制作途中のファイルを、全部渡さないといけない?
全部を渡す前に、取り決めでどこまで納品する約束だったかを確かめます。確認のために見せるだけなら、縮小した途中の画像、レイヤーの一覧、下書きの一部など、範囲を決めて示す方法があります。元データの扱いは、渡す前に文書で取り決めておくと安心です。
出典
- Liang W, Yuksekgonul M, Mao Y, Wu E, Zou J (2023). GPT detectors are biased against non-native English writers. Patterns, 4(7), 100779. https://doi.org/10.1016/j.patter.2023.100779
- Cheng A, Lin Y, Reedy G, Joseph C, et al. (2025). Ability of AI detection tools and humans to accurately identify different forms of AI-generated written content. Advances in Simulation, 10, 66. https://doi.org/10.1186/s41077-025-00396-6
- Huang Y, Shen Q, Gan F (2026). Judging AI-generated paintings: art-education differences in source classification. Frontiers in Psychology, 17, 1903106. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2026.1903106
- Bellaiche L, Shahi R, Turpin MH, et al. (2023). Humans versus AI: whether and why we prefer human-created compared to AI-created artwork. Cognitive Research: Principles and Implications, 8, 42. https://doi.org/10.1186/s41235-023-00499-6


