プライバシー・個人情報

個人情報が心配で、医師に本当のことを話せなくなった。米国の調査では大人の約8人に1人が記録の安全を心配して話さなかった経験があり、話しやすさは医療者とのやりとりの質と結びついていた

約9分で読めます

わかっている度 ★★☆ 中研究4本を整理出典照合済み(2026-10-24)
検査キットを持つ手と、机の上の聴診器と本
Photo: Shixart1985 / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査公開された研究と公的機関のデータ・指針をAIが調べて整理しました(商品の紹介や診断はしていません。出典は末尾)。

情報の流出のニュースを見た。診察で「AIで会話を記録します」と言われた。健康アプリのデータがほかの会社に渡っていたと知った。それ以来、病院で体のことや飲んでいる薬を正直に話すのをためらってしまう。そう感じるのは、あなたが神経質だからではありません。米国の全国調査では、大人の約8人に1人が、医療記録の安全が心配で医療者に話さなかった経験がありました。そして話しにくさは、医療者とのやりとりの質や、「記録の使われ方に自分も関われる」という感覚と結びついていました。

3行でわかる

  1. 米国の全国調査(2011〜2012年、18歳以上3,959人)では、約12.3%が医療記録の安全やプライバシーが心配で、医療者に情報を伝えなかった経験がありました。
  2. 記録の使われ方に「ほとんど口を出せない」と感じる人ほど伝えない傾向があり、医療者とのやりとりが良い人ほど伝えない割合は低くなっていました。
  3. 立て直しは、記録の行き先を医療機関に聞き、薬や症状など診察に関わることから伝え直すことから始めます。

01 結論から言うと個人情報が怖くて医師に話せないのは、おかしい?

おかしくありません。米国の調査では、記録の安全が心配で医療者に話さなかった人は、調査の年によって約9〜15%いました。話しにくさは、医療者とのやりとりや「自分で関われる」感覚と結びついており、聞くことと伝え方で立て直せる部分があります。

診察で話すことは、そのまま医療記録に残ります。最近は、記録が電子化されて医療機関の間で共有されたり、AIが会話を書き起こしたりする場面も増えました。「誰に見られるのか」がわからないと、言いにくいことほど口に出しにくくなります。

一方で、研究者は、患者が情報を伝えないと、適切な診断や治療の妨げになりうると指摘しています。だからこの記事では「怖がらずに全部話そう」とは言いません。何が心配なのかをはっきりさせ、確かめてから、必要なことを伝え直す手順を考えます。

AIが下書きした診察の記録に誤りを見つけたときの対応はAIの診察記録に間違いがあったときの記事に、AIの健康アドバイスで自己判断していたことを医師に言い出しにくいときは医師に言い出しにくいときの記事にまとめています。この記事では、個人情報の心配そのものが話しにくさの原因になっている場合を扱います。

02 研究とデータでわかっていること記録が心配で話さない人は、どのくらいいる?

米国の全国調査では、医療記録の安全やプライバシーが心配で医療者に話さなかった経験がある人は、調査の年によって約9〜15%でした。記録の使われ方に関われないと感じる人ほど多く、医療者とのやりとりが良い人ほど少ない傾向でした。

12.3%記録の安全が心配で、医療者に情報を伝えなかった経験がある人(米国の18歳以上、2011〜2012年)
1.42倍記録の使われ方に「ほとんど口を出せない」と感じる人の、伝えなかった経験のオッズ(同じ調査)
13.57%伝えなかった経験の割合が最も高かった2014年の値。その後は8.65%まで下がった(米国、2011〜2018年の5回の調査)
約1割記録の安全が心配で医療者に伝えなかった経験がある女性(米国、2011〜2018年、7,738人)

Agakuら(2014, Journal of the American Medical Informatics Association)[1]

米国の全国調査で、約12.3%が、医療記録の安全やプライバシーが心配で、医療者に情報を伝えなかった経験がありました。記録が医療機関の間で電子的にやりとりされるときの情報の安全を心配する人は64.5%いました。また、記録の使われ方に「ほとんど口を出せない」と感じる人は、伝えなかった経験のオッズが1.42倍でした。

対象: 米国の18歳以上3,959人(郵送調査、2011年10月〜2012年2月、回答率36.7%) / 限界: 自己申告の一時点の調査で、関連を示すもの。回答率が低く、英語とスペイン語でのみ実施されています。

Walkerら(2017, Journal of Medical Internet Research)[2]

2011年と2014年の同じ全国調査を比べると、記録の安全が心配で医療者に伝えなかった人の割合は、2011年14.79%、2014年14.93%で、ほとんど変わりませんでした。どちらの年も、受けている医療の質が高いと感じる人ほど、伝えない可能性は低くなっていました(オッズ比 2011年0.73、2014年0.61)。

対象: 米国の全国調査の回答者(2011年3,959人、2014年3,677人。割合は分析に使った回答者で計算) / 限界: 一時点の調査を2回比べたもので、因果関係はわかりません。「伝えなかった」のが心配より先だった可能性も、著者ら自身が挙げています。

Yangら(2020, Journal of Medical Internet Research)[3]

2011〜2018年の5回分の調査をまとめると、記録が心配で伝えなかった割合は2014年の13.57%が最も高く、その後は8.65%まで下がっていました。質問の機会をくれる、気持ちに注意を向けてくれるといった、医療者とのやりとりの良さを測った点数が高い人ほど、伝えない可能性は低い傾向がありました(オッズ比0.63)。

対象: 米国の全国調査の回答者11,954人(2011〜2018年) / 限界: 一時点の調査の積み重ねで、因果関係は確かめられていません。著者らも、結果の確認にはさらに研究が必要としています。

Ajayiら(2023, BMC Health Services Research)[4]

米国の女性7,738人の分析では、約1割(10.8%)が、記録の安全が心配で医療者に情報を伝えなかった経験がありました。医療者とのやりとりの点数が1点高いごとに、伝えなかった経験のオッズは約7%低くなっていました。心の負担(心理的な苦痛)が強いことも、伝えないことと関わっていました。

対象: 米国の女性7,738人(2011〜2018年の全国調査) / 限界: 一時点の調査で、関連を示すもの。米国の医療制度のもとでの結果です。

4つの研究に共通するのは、話しにくさは「気にしすぎ」で片づけられるものではなく、記録の使われ方がわからない・関われないという感覚と、医療者とのやりとりに左右されうる、という見方です。どちらも、こちらから聞く・伝え方を工夫することで、少し動かせる部分があります。

03 まだわかっていないことAIの記録が広がると、話しにくさは増える?

まだわかっていません。紹介した研究はどれも米国の電子カルテの時代の調査で、AIによる記録や健康アプリが話しにくさに与える影響を測った研究は、今回の調査では見つかりませんでした。

  • AIが診察の会話を記録する仕組みや、AIの健康アプリの広がりが、医療者に話す内容を変えるか。
  • 日本の患者で、記録が心配で話さない人がどのくらいいるか。紹介した研究は、すべて米国の調査です。
  • 記録の行き先を説明する、患者が記録の使われ方を選べるようにするといった工夫で、伝えない人が実際に減るか。試して確かめた研究は見つかりませんでした。
  • 伝えなかったことが、その後の診断や治療にどのくらい影響したか。

04 今日からできること話せなくなったとき、どこから立て直す?

言えなかったことと理由を書き出し、記録の行き先を医療機関に聞き、薬や症状など診察に関わることから伝え直します。どれも無料で、次の診察の前に10分ほどで準備できます。

次の工夫は、研究で話しにくさと関わっていた「記録の使われ方に関われない感覚」と「医療者とのやりとり」を動かす方向で選びました。工夫そのものの効果を試した研究ではない点に注意してください。

1

言えなかったことと、心配の中身を書き出す

紙を2列に分け、左に「言えなかったこと」(薬、症状、生活のこと等)、右に「何が心配か」(職場に知られる、家族に見られる、AIの会社に渡る等)を書きます。心配の相手がはっきりすると、確かめることも決まります。

目安 5分

2

記録の行き先を、受付か医師に聞く

「診察の内容は誰が見られますか」「AIで会話を記録していますか。断れますか」と聞きます。聞くこと自体が、記録の使われ方に関わる一歩になります。AIの記録に同意する前に確かめる4つの点はAIで診察を記録するときの記事にまとめています。

目安 診察の最初に1〜2分

3

診察に関わることから伝え直す

全部を一度に話す必要はありません。いま飲んでいる薬やサプリメント、続いている症状など、診察や薬の判断に関わることから伝えます。「記録が心配で、前回は言えなかったのですが」と前置きしてかまいません。

目安 メモにして3項目まで

4

AIのサービスには、体の詳しい情報を入れる前に確かめる

健康アプリやAIの相談チャットに書く前に、運営者・送り先・消し方の3つを確かめます。データがほかの会社に渡っていたとわかったときの手順は健康アプリのデータが共有されていたときの記事にあります。

目安 1つのサービスにつき10分

05よくある質問

個人情報が心配で医師に話さないのは、よくあること?

珍しいことではありません。米国の全国調査(2011〜2012年、18歳以上3,959人)では、約12.3%が医療記録の安全やプライバシーが心配で、医療者に情報を伝えなかった経験がありました。2011〜2018年のほかの年の調査では、約9〜15%で推移していました。

診察の内容がどこまで記録に残るか、聞いてもいい?

聞いてかまいません。記録を誰が見るのか、AIで会話を記録しているか、録音を断れるかは、医療機関に確かめてよいことです。研究では、記録の使われ方に「ほとんど口を出せない」と感じる人ほど、情報を伝えない傾向がありました。

話さなかったことを、次の診察で伝えてもいい?

伝えてかまいません。「前回は記録が心配で言えなかったのですが」と前置きして、いま飲んでいる薬や症状など、診察に関わることから伝えます。黙っていた理由を長く説明する必要はありません。

AIの健康アプリや相談チャットに書くのも怖くなった。どうすればいい?

書く前に、運営者・送り先・消し方の3つを確かめる方法があります。診断や治療に関わる大事な情報は、AIのサービスより、診察の場で医療者に直接伝えるほうが、使われ方を確かめやすくなります。

「プライバシー・個人情報」を順に読む
知る → 備える → 起きたとき → 立て直す(この記事)
この悩みのガイドを見る

出典

  1. Agaku IT, Adisa AO, Ayo-Yusuf OA, Connolly GN (2014). Concern about security and privacy, and perceived control over collection and use of health information are related to withholding of health information from healthcare providers. Journal of the American Medical Informatics Association, 21(2), 374–378. https://doi.org/10.1136/amiajnl-2013-002079
  2. Walker DM, Johnson T, Ford EW, Huerta TR (2017). Trust Me, I’m a Doctor: Examining Changes in How Privacy Concerns Affect Patient Withholding Behavior. Journal of Medical Internet Research, 19(1), e2. https://doi.org/10.2196/jmir.6296
  3. Yang X, Parton J, Lewis D, Yang N, Hudnall M (2020). Effect of Patient-Physician Relationship on Withholding Information Behavior: Analysis of Health Information National Trends Survey (2011-2018) Data. Journal of Medical Internet Research, 22(1), e16713. https://doi.org/10.2196/16713
  4. Ajayi KV, Olowolaju S, Bolarinwa OA, Onyeka H, et al. (2023). Association between patient-provider communication and withholding information due to privacy concerns among women in the United States: an analysis of the 2011 to 2018 Health Information National Trends Survey. BMC Health Services Research, 23, 1155. https://doi.org/10.1186/s12913-023-10112-7