AIが下書きした診察の記録に、話していないことや間違いが書かれていた。研究ではAIの下書きの1割強に話していない内容が入り、人の記録でも患者の5人に1人が誤りに気づいている。違う箇所を書き出して医療機関に伝える

AIの記録を使った診察のあと、受け取ったまとめや記録を見たら、言っていない症状や違う薬の量が書かれていた。自分の体の情報が間違ったまま残るのは不安です。研究では、AIの下書きには抜けや話していない内容が一定の割合で入り、人が書いた記録でも患者の5人に1人が誤りに気づいていました。気づいたときにまずすることを整理します。
3行でわかる
- 米国の病院で医師がAIの下書き356件を確かめた研究では、必要なことの抜けが18%、話していない内容が11.5%の下書きにありました。重大になりうる誤りを含むものは5.3%でした。
- AIを使わない記録でも、記録を読んだ米国の患者の21.1%が誤りに気づき、その42.3%が深刻だと感じていました。
- 深刻な誤りに気づいても、伝えたのは56%でした。どの記録のどの文が、本当はどうかを書き出して伝えると、医療機関が確かめやすくなります。
01 結論から言うとAIの記録に誤りを見つけたら、どうする?
薬の名前や量、アレルギー、病名、検査結果など、治療に関わる誤りは早めに医療機関に伝えます。どの記録のどの文が、本当はどうかを書き出しておくと、短い時間で正確に伝わります。
AIスクライブ(AIの記録係)は、診察中の会話をAIが文字にして、記録の下書きを作る仕組みです。下書きは医師が確かめて直してから記録になりますが、研究では、医師による直し方には大きな差がありました。直しきれなかった誤りが、患者の受け取るまとめに残ることがあります。
記録の誤りは、AIを使わない場合にも起きます。大事なのは、AIのせいかどうかを突き止めることより、間違いを正しい内容に直してもらうことです。AIの記録に同意する前の確かめ方は「AIで会話を記録していいですか」と聞かれたときの記事にまとめています。
02 研究とデータでわかっていることAIの診察記録には、どんな誤りが入る?
多かったのは必要なことの抜けで、次が話していない内容、話した内容の取り違えでした。人が書いた記録でも誤りは珍しくなく、患者が気づいて伝えることが、記録を正しくする手がかりになっています。
Taylorら(2026, JMIR Medical Informatics)[1]
米国カリフォルニア大学デービス校の病院で、医師31人がAIの記録を2か月使い、下書き356件の誤りを確かめました。必要なことの抜けが18%、話していない内容が11.5%、話した内容の取り違えが9.3%の下書きにありました。誤りの多くは軽い〜中くらいでしたが、直さなければ重大になりうる誤りを含む下書きが5.3%ありました。直した量がわかった960件では、医師がまったく直さなかったものが14.9%ありました。
対象: 複数の診療科の外来(2024年7〜8月)。作られた下書き7,545件のうち4.7%を確かめた / 限界: どの下書きを確かめるかは医師が選び、重さの判定も医師ごとの判断です。患者が読んだ記録の誤りを数えた研究ではありません。
Bellら(2020, JAMA Network Open)[2]
診察の記録をネットで読める米国の3つの医療機関で、患者にアンケートをとりました。過去1年に記録を読んだ22,889人のうち、21.1%が誤りに気づき、その42.3%が深刻だと感じていました。とても深刻とされた誤りでは、病名が27.5%、病歴が23.9%、薬やアレルギーが14.0%を占めました。
対象: 2017年の調査で、AIの記録が広まる前の、医師が書いた記録 / 限界: 患者が「誤り」と感じたもので、医師が誤りと確かめたものではありません。回答率は21.7%でした。
Lamら(2021, Journal of the American Medical Informatics Association)[3]
米国の2つの大学病院で、記録を読んだ8,648人のうち17%が誤りに気づき、そのうち44%が深刻だと答えました。深刻な誤りに気づいた人のうち、医療者に伝えたのは56%でした。伝えるときの壁として最も多かったのは「伝え方がわからない」(61%)で、「面倒な人と思われたくない」(34%)が続きました。一方で、回答者の93%が、誤りを伝えることは患者の安全につながると考えていました。
対象: 2016年の調査に答えた成人の患者と、子どもの家族 / 限界: AIを使わない記録の調査です。数字は要旨で確認できたものだけを使いました。
3つの研究を合わせると、記録の誤りはAIでも人でも起き、患者が見つけて伝えることに意味があると言えます。そして伝えるのをためらう理由の多くは、「どう伝えればいいかわからない」という、準備で減らせるものでした。
03 まだわかっていないことAIの記録は、人の記録より誤りが多い?
まだわかっていません。AIの下書きと、医師が自分で書いた記録の誤りを、同じ基準で比べた大きな研究は、今回の調査では見つかりませんでした。日本の医療機関でのデータも見当たりません。
- AIの記録と人の記録で、患者が気づく誤りの数がどう違うか。
- 患者が読む最終的な記録に、AIの誤りがどのくらい残っているか。紹介した研究は医師が直す前の下書きを確かめたものです。
- 日本の医療機関で、AIの記録の誤りがどのくらいあるか。今回の調査では見つかりませんでした。
- 誤りを伝えたあと、どのくらいの割合で直されているか。医療機関ごとの手順に左右されます。
04 今日からできること誤りに気づいたら、何から始める?
違う箇所を書き出し、治療に関わるものから順に、医療機関に伝えます。薬の名前や量が違うときは自己判断で変えず、処方した医療機関か薬局に確かめます。書き出しは10分ほどでできます。
次の手順は、研究で多かった誤りの種類と、伝えるときの壁から選びました。手順そのものの効果を試した研究ではない点に注意してください。
違う箇所を書き出す
「何月何日の診察の記録の、この文が、本当はこう」と1行ずつ書きます。話していない内容、抜けている内容、取り違えの3つに分けると伝えやすくなります。記録やまとめは捨てずに取っておきます。
目安 10分
治療に関わるものに印をつける
薬の名前や量、アレルギー、病名、病歴、検査結果、体の左右の取り違えなどは、研究でも深刻とされやすい誤りでした。印のついたものは、次の診察を待たずに連絡します。
目安 2分
医療機関に伝える
受付や病院の相談窓口で「記録の内容に誤りがあるので伝えたい」と言い、書き出したメモを見せます。研究では「伝え方がわからない」が最大の壁でした。メモがあれば、言い出しにくさも減ります。
目安 電話や窓口で5分
薬は自己判断で変えない
記録の薬の量が、言われた量と違っていても、自分で量を変えずに、処方した医療機関か薬局に確かめます。AIの答えを信じて薬を間違えたときの手順はAIの答えで薬の量を間違えたときの記事にまとめています。
目安 気づいた日に
次の診察の希望を伝える
AIの記録をこのまま使ってよいか、使わないでほしいかを伝えます。続けて使う場合は、まとめを受け取ったら確かめることにします。
目安 次の診察で1分
AIのチャットが自分について間違ったことを答えた場合は、相手が医療機関ではなくAIのサービスになります。その場合の手順はAIに自分の名前を聞いたら間違った情報が出たときの記事にまとめています。
05よくある質問
AIの記録の小さな間違いでも、伝えたほうがいい?
治療に関わる誤りは、小さく見えても伝えたほうが安心です。米国の研究では、とても深刻とされた誤りの多くが、病名、病歴、薬やアレルギーについてでした。言葉の言い回しのような、治療に関わらない違いは、次の診察のついででかまいません。
記録の誤りを伝えると、気まずくならない?
気まずさは多くの人が感じています。米国の調査では、伝えるのをためらった理由として「面倒な人と思われたくない」が34%ありました。一方で、回答者の93%が、誤りを伝えることは患者の安全につながると考えていました。書き出したメモを見せる形にすると、責める言い方になりにくくなります。
誤りがAIのせいか、医師のせいか知りたい
患者の側からは見分けにくいことが多いです。記録の誤りは、AIを使わない場合にも患者の5人に1人ほどが気づいていました。まずは正しい内容に直してもらうことを優先し、AIの記録をどう使っているかは、そのあとで聞けば十分です。
AIの記録の録音は、あとから消してもらえる?
病院や使っているサービスの決まりによって違い、研究からはひとつに言えません。気になる場合は、記録の誤りを伝えるときに、録音や文字のデータがいつまで残るかもあわせて聞きます。
出典
- Taylor SL, Jost M, MacDonald S, et al. (2026). Quality of Clinical Notes Created by Ambient Listening Generative AI: Pragmatic Prospective Pilot Study. JMIR Medical Informatics, 14, e86474. https://doi.org/10.2196/86474
- Bell SK, Delbanco T, Elmore JG, et al. (2020). Frequency and Types of Patient-Reported Errors in Electronic Health Record Ambulatory Care Notes. JAMA Network Open, 3(6), e205867. https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2020.5867
- Lam BD, Bourgeois F, Dong ZJ, Bell SK (2021). Speaking up about patient-perceived serious visit note errors: Patient and family experiences and recommendations. Journal of the American Medical Informatics Association, 28, 685–694. https://doi.org/10.1093/jamia/ocaa293


