診察で「AIで会話を記録してもいいですか」と聞かれた。同意する前に何を確かめる?研究では使った患者の7割が役立ったと答え、不安は正確さと個人情報に集まっていた。録音の行き先と断れるかを先に聞いておく

診察室で医師から「会話をAIで記録して、カルテの下書きを作ってもいいですか」と聞かれる。米国などで広がっている「AIスクライブ(AIの記録係)」です。急に聞かれると、断っていいのか、何が残るのか迷います。研究では、使った患者の多くは前向きでしたが、使う前の不安は「正確に書かれるか」と「個人情報」に集まっていました。同意する前に聞いておくことを整理します。
3行でわかる
- 米国の大学病院で、AIの記録を使った診察のあとに答えた患者2,202人のうち、70.1%が「役立った」、73.6%が「次も使ってほしい」と答えました。
- 導入前の米国の患者調査では、不安を書いたコメントの39%が記録の正確さ、15%がプライバシーと安全についてでした。
- 同意の前に「録音は残るか・誰が見るか・ほかの目的に使うか・断れるか」の4つを聞くと、自分で決めやすくなります。
01 結論から言うと「AIで記録していい?」は断ってもいい?
研究で紹介された米国の病院では、AIを使う前に医師が知らせ、患者は断ることができました。同意は、仕組みを聞いたうえで自分で決めてよいものです。迷うときは、4つの質問をしてから決めます。
AIスクライブは、診察中の会話をマイクで拾い、AIが文字にして、カルテの下書きを作る仕組みです。医師はパソコンに打ち込む時間が減り、患者の顔を見て話せるようになるとされています。下書きは、医師が確かめて直してから記録になります。
一方で、診察の会話には病名や薬、家族のことなど、知られたくない情報が多く含まれます。録音がどこに送られ、いつまで残り、誰が見るのか。説明を受けないまま「はい」と答えると、あとで不安が残りやすくなります。
会議でAIの文字起こしに発言が記録されていたときの確かめ方はAIの議事録に自分の発言が残っていたときの記事で扱いました。この記事は、記録される前に、患者として何を聞いておくかを扱います。
02 研究とデータでわかっていることAIの記録を、患者はどう受け止めている?
使った患者の7割が役立ったと答えました。一方、使う前の患者の不安は、記録の正確さとプライバシーに集まっていました。研究者は、前もっての説明と、はっきりした同意が信頼の鍵だとしています。
Shahら(2026, JAMIA Open)[1]
米国スタンフォード大学の病院で、AIの記録を使った外来の診察のあと、患者にアンケートをとりました。答えた2,202人のうち、70.1%が役立ったと答え、73.6%が次も使ってほしいと答えました。この病院では、医師はAIを起動する前に、患者と同席者に録音することを知らせる決まりで、患者は断ることができました。
対象: 英語を話す成人の患者(2025年5〜7月)。回答者の59.8%が70歳以上 / 限界: 答えた人だけの結果で、技術に前向きな人が多かった可能性があります。プライバシーや信頼についての質問は含まれていません。
Leiserowitzら(2025, JMIR Medical Informatics)[2]
米国カリフォルニア大学デービス校の病院が、AIの記録を始める前に患者に考えを聞きました。答えた1,893人のうち、48%が好意的、33%がどちらでもない、19%が否定的でした。不安を書いたコメント1,330件では、記録の正確さが39%、プライバシーと安全が15%、録音されること自体への抵抗が13%でした。若い人ほど、正確さとプライバシーへの不安が強い傾向でした。
対象: 過去1年に受診した18歳以上の患者。回答率は20% / 限界: 英語のメールで送った調査で、回答者は女性・50歳以上・白人に偏っていました。著者らは、前もっての説明と、使う前にはっきり許可をとることが受け入れの鍵だと述べています。
Kumahら(2026, npj Digital Medicine の論説)[3]
AIの記録の倫理を論じた論説です。患者の多くは、何が録音され、データがどのくらいの期間残り、誰が見られ、開発や商用の目的で外部と共有されるかが見えにくいと指摘しています。そのうえで、口頭と書面での説明、記録の作成以外の使い道の区別、断りやすい仕組みが必要だと提言しています。
種類: 研究者の論説(新しいデータを集めた研究ではありません) / 限界: 主に海外の制度を前提にした議論です。
AIの下書きの正確さについては、米国の病院で医師が356件を確かめた研究があり、話していない内容が入った下書きが11.5%ありました[4]。誤りに気づいたときの対応はAIの診察記録に誤りを見つけたときの記事にまとめています。
03 まだわかっていないこと日本の病院でも同じことが言える?
まだわかっていません。紹介した調査はどれも米国の病院のもので、日本の医療機関でAIの記録について患者に聞いた査読つきの研究は、今回の調査では見つかりませんでした。録音の扱いも、病院やサービスごとに違います。
- 日本の患者が、AIの記録をどう受け止めているか。今回の調査では見つかりませんでした。
- 録音や文字のデータが、何年残り、AIの開発に使われることがあるか。病院やサービスごとに違い、まとめて調べた研究は見当たりません。
- 使う前の説明で、患者の理解や安心がどのくらい変わるか。説明のしかたを比べた研究はまだ少数です。
- 心の病気や性の健康など、知られたくない相談の場面で、患者がAIの記録をどう感じるか。
04 今日からできること同意する前に、何を聞けばいい?
録音が残るか、誰が見るか、記録の作成以外に使うか、断っても診察は変わらないか。この4つを聞いてから決めます。聞くのは1分ほどで、答えを聞いたあとで断ってもかまいません。
次の工夫は、研究で患者の不安が集まっていた点と、論説で指摘された「見えにくい点」から選びました。工夫そのものの効果を試した研究ではない点に注意してください。
4つの質問をする
「録音の音声は残りますか、いつ消えますか」「記録を見るのは誰ですか、外部の会社も入りますか」「記録を作る以外に使いますか(AIの開発など)」「使わない場合、診察は変わりませんか」。答えがわからないと言われたら、わかる人に聞いてもらうか、その日は断ります。
目安 1分
話しにくい話題の前に止めてもらう
家族のこと、心の不調、性の健康など、記録されたくない話がある場合は、その部分だけ記録を止められるかを聞きます。止められない場合は、AIを使わない診察を選べるかを聞きます。
目安 その場で一言
付き添いの家族にも伝える
研究で紹介された病院では、同席者にも録音を知らせる決まりでした。家族が付き添うときは、録音されることを家族にも伝え、家族が嫌がる場合は医師に相談します。
目安 診察の前に1分
記録やまとめを見る機会があれば確かめる
診察のまとめや説明書を受け取ったら、薬の名前と量、アレルギー、病名が合っているかだけでも見ます。違っていたら、早めに医療機関に伝えます。
目安 受け取った日に5分
医療アプリに体調を書くときの確かめ方はAIの相談アプリに心の悩みを書く前の記事に、規約のどこを読めばよいかはAIサービスの利用規約の読み方の記事にまとめています。
05よくある質問
AIの記録を断ると、診察で不利になる?
研究で紹介された米国の病院では、患者はAIの記録を断ることができました。AIの記録は医師の書く手間を減らすための道具で、使わなくても医師が自分で記録を書きます。断ると不利になるか不安なときは、「使わない場合、診察は変わりませんか」と聞いてかまいません。
診察の録音は、AIの学習に使われる?
病院や使っているサービスによって違い、研究からはひとつに言えません。論説では、患者は自分の会話が将来のAIの開発に使われるかどうかを知らないことが多いと指摘されています。気になる場合は、記録を作る以外に使うかどうかを、同意の前に聞きます。
AIが作った記録は正確?
大きな誤りのないものが多い一方、誤りもあります。米国の病院で医師がAIの下書き356件を確かめた研究では、重大な誤りのないものが94.7%でしたが、話していない内容が入ったものが11.5%、必要なことが抜けたものが18%ありました。下書きは医師が確かめてから記録になる仕組みですが、患者も受け取ったまとめを見ておくと安心です。
一度同意したら、次からも使われる?
病院の決まりによります。研究で紹介された病院では、AIを起動する前に毎回、患者と同席者に知らせる決まりでした。気持ちが変わったときは、次の診察の前に「今日は使わないでほしい」と伝えます。
出典
- Shah SJ, Murtagh KN, Char D, et al. (2026). Patient perspectives on clinicians' use of ambient AI scribes. JAMIA Open, 9, ooag104. https://doi.org/10.1093/jamiaopen/ooag104
- Leiserowitz G, Mansfield J, MacDonald S, Jost M (2025). Patient Attitudes Toward Ambient Voice Technology: Preimplementation Patient Survey in an Academic Medical Center. JMIR Medical Informatics, 13, e77901. https://doi.org/10.2196/77901
- Kumah E, Antwi J, Boakye DS, Botchwey CO, Anyimadu E (2026). The ethics of listening walls: patient autonomy and consent in the age of ambient clinical AI. npj Digital Medicine, 9, 506. https://doi.org/10.1038/s41746-026-02973-z
- Taylor SL, Jost M, MacDonald S, et al. (2026). Quality of Clinical Notes Created by Ambient Listening Generative AI: Pragmatic Prospective Pilot Study. JMIR Medical Informatics, 14, e86474. https://doi.org/10.2196/86474


