健康アプリやAIの体調分析に使っていた記録が、ほかの会社に渡っていたと知った。研究では薬のアプリ24本中19本が利用者のデータを外部と共有しており、まず渡った項目と相手を確かめ、止める・消すを頼む

体調や睡眠、飲んでいる薬を記録していた健康アプリ。AIが分析してくれる便利さで使っていたのに、その記録がほかの会社にも渡っていたと知った。自分の体のことを知らない相手に見られたような、落ち着かない気持ちになるのは自然なことです。研究では、健康アプリのデータが外部と共有されるのは珍しくなく、しかも規約から読み取りにくいことがわかっています。知った直後にやることを、順番に整理します。
3行でわかる
- 英米などで評価の高い薬のアプリ24本を調べた研究では、19本(79%)が利用者のデータを外部と共有し、受け取り手は55の組織にのぼりました。
- 共有はプライバシーポリシーから読み取りにくく、オーストラリアの研究では、データの送信のうちポリシーに書かれていたのは47.0%でした。
- 直後は、①渡った項目と相手を確かめる、②設定と連携で止められる共有を止める、③運営者に削除を頼んで記録を残す、の順に進めます。
01 結論から言うと記録が他社に渡っていたと知ったら、まず何をする?
まず、何の記録が、どの会社に、何のために渡ったのかを確かめます。アプリを消すのは、画面やポリシーを保存してからにします。そのうえで共有を止め、運営者に削除を頼みます。
「渡っていた」と一口に言っても、中身はさまざまです。端末の種類やアプリの使い方だけが分析サービスに送られていた場合もあれば、病気や薬の記録そのものが提供されていた場合もあります。どちらなのかで、心配の大きさも、頼むべきことも変わります。
つなぐ前に確かめることは、スマートウォッチや健康アプリの記録を、AIに分析させても大丈夫?で整理しています。この記事は、すでに渡っていたと知ったあとの話です。
02 研究とデータでわかっていること健康アプリのデータは、どのくらい他社に渡っている?
研究では、健康アプリのデータが外部と共有されるのは珍しくありません。薬のアプリ24本中19本、うつと禁煙のアプリ36本中33本が外部にデータを送っていました。共有の多くは規約から読み取りにくいものでした。
Grundyら(2019) [1]
薬の管理や薬の情報を扱う、評価の高いアプリ24本を、架空の利用者のプロフィールで実際に使い、送られるデータを調べました。通信の分析に、プライバシーポリシーに書かれていた共有を合わせると、19本(79%)が利用者のデータを共有していました。データを受け取っていたのは55の組織(開発元を含む。親会社は46社)で、そのうち37(67%)は、分析や広告などデータを集めて分析するサービスでした。よく送られていたのは端末名(15本)やメールアドレス(9本)で、飲んでいる薬の一覧も6本(25%)が共有していました。さらに受け取った側は、216の「その先の会社」とデータを共有できると説明していました。
対象: 英国・米国・カナダ・オーストラリアのAndroidの薬関連アプリ24本 / 限界: 2017〜2018年の実験室での調査で、アプリの数も少なく、日本のアプリや現在の状態を示すものではありません。
Huckvaleら(2019) [2]
うつと禁煙の人気アプリ36本の通信を調べ、プライバシーポリシーの記載と比べました。外部にデータを送っていたのは33本(92%)で、29本(81%)は広告や分析のために2つの大手IT企業のサービスへ送っていました。ところが、その送り先を名指しでポリシーに書いていたのは、送っていたアプリの4〜5割でした。ポリシーがあった25本のうち、データの削除の手順を書いていたのは12本(48%)、自分のデータの開示を求める手順を書いていたのは10本(40%)でした。
対象: 米国とオーストラリアのAndroidとiPhoneのアプリ36本(2018年) / 限界: うつと禁煙のアプリに限った調査で、送られたデータの中身がすべて健康の記録だったわけではありません。
Tangariら(2021) [3]
オーストラリアのGoogle Playにあった健康関連アプリ20,991本を調べた大規模な研究です。実際の通信で見つかった利用者データの送信3,148件のうち、プライバシーポリシーに書かれていたのは47.0%でした。24.0%はポリシーがあるのに書かれておらず、29.0%はポリシーのないアプリからの送信でした。ポリシーが見当たらないアプリは全体の28.1%でした。
対象: オーストラリアのAndroidの健康関連アプリ(2019年10〜11月に収集) / 限界: 通信を確かめられた範囲の結果で、送られた先で実際にどう使われたかまではわかりません。
3つの研究に共通するのは、「規約を読めば何がどこへ行くかわかる」とは言いにくい、という点です。気づかなかったのは、読者の不注意だけのせいではありません。
03 まだわかっていないこと渡ったデータで、どんな影響が出る?
渡ったデータが提供先でどう使われ、利用者にどんな影響が出たかは、研究でもほとんどわかっていません。わかっているのは「送られていた」ところまでで、その先は確かめにくいのが現状です。
- 3つの研究はいずれも海外のアプリで、日本のアプリで同じ割合になるかはわかりません。
- 研究は通信を外から観察したもので、受け取った会社の中でデータがどう使われ、どれだけの期間残るのかは確かめられていません。
- 運営者に削除を頼んだとき、提供先のデータまで実際に消えるのかを調べた研究は、健康アプリではほとんど見当たりません。
04 今日からできること他社に渡ったと知った直後、何から手をつける?
渡った項目と相手を確かめて記録を残し、設定と連携で止められる共有を止め、運営者に削除を頼みます。この3つは、お金をかけずに今日から始められます。
「何が・どこへ・何のために」を書き出す
通知や報道、アプリのお知らせの文面と、プライバシーポリシーの「第三者」「提供」「共有」の項目を保存します。体重や歩数だけか、病気・薬・心の状態まで含むかを分けて書き出すと、次にやることが決まります。
目安 20分(スクリーンショットと日付のメモ)
設定と連携で、止められる共有を止める
アプリ内のデータ共有・広告・研究への協力の設定と、ほかのアプリやサービスとの連携の一覧を確かめ、要らないものを外します。スマホの設定で、そのアプリに許している健康データや位置情報の権限も見直します。
目安 15分(アプリ1つにつき)
運営者に「どこへ渡したか」と「削除」を頼む
問い合わせ窓口に、提供先と提供した項目を教えてほしいこと、これからの提供を止めて削除してほしいことを、短く具体的に送ります。送った日と文面、返事は残しておきます。法律にもとづく開示や削除の手続きは、AIの加工アプリに顔写真を送ってしまったとAIサービスの利用規約が難しくて読めないで整理しています。
目安 15分(返事が来るまで待つ期間は別)
続けるか、記録を移して離れるかを決める
落ち着いたら、そのアプリを使い続けるかを決めます。離れる場合は、必要な記録だけを書き出して保存してから、アカウントを削除します。端末からアプリを消すだけでは、運営者側のデータは残ることがあります。
目安 30分
心の悩みや体調を書くアプリを選び直すときの見方は、AIの相談アプリに、心の悩みや体調を書いても大丈夫?にまとめています。通知の文面が「漏えい」のお知らせだった場合は、AIサービスから個人情報が漏れたと通知が来たの手当てを先に読んでください。
「アプリの記録を返すから」「削除の手続きに必要」などと言って、お金やカード番号、パスワードを求める連絡は、運営者を名乗っていても応じず、公式サイトに載っている窓口に自分から問い合わせます。お金を払ってしまった・脅されているときは、すぐに警察に相談します。
05よくある質問
アプリを消せば、渡ったデータも消える?
消えるとは限りません。アプリを端末から消しても、運営者や提供先のサーバーにあるデータは残っていることがあります。アカウントの削除と、運営者への削除の依頼は別の手続きになっていることが多いので、ヘルプやプライバシーポリシーで削除の窓口を確かめます。
運営者に問い合わせても、答えてもらえる?
答えてもらえるかを調べた研究は見当たりません。うつと禁煙のアプリ36本を調べた研究では、プライバシーポリシーがあった25本のうち、データの削除の手順を書いていたのは12本(48%)でした。書いていない場合も、問い合わせ先に「どの会社に、何を渡したか」と「削除してほしい」をはっきり書いて送り、送った日と文面を残します。
プライバシーポリシーに書いてあったなら、もう何もできない?
書いてあっても、これからの共有を止めたり、データの削除を頼んだりはできます。オーストラリアの健康アプリの研究では、利用者のデータの送信のうち、ポリシーに書かれていたのは47.0%でした。書いてあったかどうかに関係なく、まず設定で止められるものを止め、運営者に削除を頼みます。
出典
- Grundy Q, Chiu K, Held F, Continella A, Bero L, Holz R (2019). Data sharing practices of medicines related apps and the mobile ecosystem: traffic, content, and network analysis. BMJ, 364, l920. https://doi.org/10.1136/bmj.l920
- Huckvale K, Torous J, Larsen ME (2019). Assessment of the Data Sharing and Privacy Practices of Smartphone Apps for Depression and Smoking Cessation. JAMA Network Open, 2(4), e192542. https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2019.2542
- Tangari G, Ikram M, Ijaz K, Kaafar MA, Berkovsky S (2021). Mobile health and privacy: cross sectional study. BMJ, 373, n1248. https://doi.org/10.1136/bmj.n1248


