AI翻訳に頼って外国語を学ぶと、単語が身につかない?医学生160人の試験では、訳文だけで読んだ組が1週間後に英語の用語を最も書けず、「先に自分で訳す」と決めておくのが手がかり

英語の記事もメールも、AI翻訳にかければ一瞬で日本語になります。便利な一方で、語学を勉強している人ほど「訳に頼っていると、単語も表現もいつまでも覚えられないのでは」と不安になるはずです。AI翻訳と語学の関係を直接調べた研究はまだ少ないものの、訳文だけで読むと、その場の理解は変わらなくても、単語が記憶に残りにくい様子が見えてきました。
3行でわかる
- 中国の医学生160人をくじ引きで分けた試験では、英語の論文を訳文だけで読んだ組は、その場の理解の点は変わらないのに、1週間後に英語の用語を書けた点が最も低くなりました。
- 原文と訳を並べて読んだ組は中間の点で、原文だけで読んだ組には届きませんでした。楽な訳のほうばかり読んだ可能性が指摘されています。
- 使う前に「内容を知りたい時間と学ぶ時間を分ける」「先に自分で訳してから比べる」「原文を先に読む」「翌日に訳を見ずに書く」の4つを決めておくと、訳に頼りながらでも学びが残りやすくなります。
01 結論から言うとAI翻訳を使うと、外国語が身につかない?
AI翻訳そのものが悪いのではなく、訳文だけで済ませると単語が残りにくい可能性があります。直接の研究はまだ少ないため、学ぶ時間は「先に自分で考え、あとで訳と比べる」形にしておくのが無難です。
訳文を読めば、内容はすぐにわかります。でも、そのとき頭の中で働いているのは日本語です。原文の単語や言い回しは、目に入らないまま通り過ぎてしまいます。
記憶の研究では、少し苦労して自分で答えを出そうとしたことのほうが、あとまで残りやすいことが知られています。AI翻訳は、その「苦労」を一瞬で肩代わりしてくれる道具です。仕事では大きな助けになりますが、語学の勉強では、使う順番を少し変えるだけで結果が変わる可能性があります。
AI翻訳を信じて誤訳を送ってしまったときのことはAI翻訳を信じて送った文章が、誤訳だったに、課題でAI翻訳を使って不正を疑われたときのことはAI翻訳を使って出した課題が、不正だと言われたにまとめています。
02 研究とデータでわかっていること訳文で読むと、単語の記憶はどう変わる?
160人の試験では、内容の理解の点は3組で変わりませんでしたが、1週間後に英語の用語を書けた点は、原文だけ、原文と訳を並べた組、訳文だけの順でした。AIに答えを出させた練習では、自力の試験の点が下がった研究もあります。
Shenら(2026)[1]
中国の医学生160人をくじ引きで3組に分け、英語の医学論文1本を30分で読んでもらいました。原文だけで読む組、原文の横にAIで作って医師が確かめた中国語訳を並べた組、訳文だけで読む組です。読んだ直後の内容の理解は、3組とも高く差がありませんでした。ところが、予告なしで1週間後に、論文に出てきた英語の用語5つを書いてもらうと、平均点(10点満点)は原文だけの組が6.38点、並べた組が5.58点、訳文だけの組が4.90点でした。原文だけの組は、ほかの2組より高い点でした。並べた組と訳文だけの組の差は、はっきりしませんでした。読んだ時間は3組とも平均25分ほどで、ほぼ同じでした。
対象: 中国の医学生(1週間後の用語のテストは予告なし) / 限界: 論文1本・用語5つ・1週間後だけの結果。訳文だけの組は英語の用語を一度も目にしていないため、差の一部は単に見たかどうかの違いとも考えられる。
この試験で、原文と訳を並べた組が原文だけの組に届かなかった理由について、研究チームは、楽な中国語の側ばかり読んでしまい、実質的に訳文だけの読み方になった人がいた可能性を挙げています。並べて表示するだけでは、原文を読むことにはならないかもしれません。
Bastaniら(2025)[2]
トルコの高校で、約1,000人の数学の授業を使った実験です。練習問題を解くときに普通の対話型AIを使えた組は、練習の点が48%上がりました。ところが、そのあとAIなしで受けた試験では、AIを使わなかった組より17%低い点でした。答えをそのまま教えず、先生が考えたヒントを出すように設定したAIでは、この下がり方はほぼ見られませんでした。
対象: トルコの高校生(数学) / 限界: 語学ではなく数学の結果。語学で同じことが起きるかは確かめられていない。
Kornellら(2009)[3]
問いと答えを一緒に見る方法と、答えを見る前に一度自分で答えようとする方法を比べた、6つの実験です。答えられずに間違えた場合でも、先に答えようとしたほうが、あとでよく覚えていました。間違えないように避けるより、難しい問いに挑むことが、学びの鍵になりうるとまとめています。
対象: 架空の知識の問いや、単語の組み合わせを覚える実験 / 限界: 外国語の翻訳で試したものではない。
覚えたことを思い出すテストの効果も、多くの実験をまとめた研究で確かめられています。読み直すより思い出すテストのほうが記憶に残り、選択肢から選ぶより自分で思い出して答える形のほうが効果は大きくなっていました。[4]
使いすぎに傾く理由を調べた調査もあります。中国の大学生575人の調査では、翻訳ソフトを使っているときの没頭感が強い人ほど、使いすぎの傾向がありました。その没頭感と最も強く結びついていたのは、「周りの人も使っている」という感覚でした。[5] ある時点の調査なので、原因と結果の向きはわかりません。
03 まだわかっていないことAI翻訳を長く使うと、語学力は落ちる?
AI翻訳を使い続けた人の語学力が、何か月・何年でどう変わるかを追った研究は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。今ある試験は短く、対象も限られています。
- AI翻訳をよく使う人と使わない人の語学力を、長い期間追って比べた研究は見つかりませんでした。
- 160人の試験は中国語を母語とする医学生で、論文1本・用語5つの結果です。日本語を母語とする人や、会話・文法の力に当てはまるかはわかっていません。
- 「先に自分で訳してから比べる」使い方が、外国語の単語の記憶に効くかを、AI翻訳で直接試した試験は見つかりませんでした。今回の手順は、記憶の研究からの推測を含みます。
- 原文と訳を並べた組が、実際にどちらをどれだけ読んでいたかは、測られていません。
04 今日からできること使う前に、何を決めておけばいい?
AI翻訳を語学の勉強に使う前に「内容を知りたい時間と学ぶ時間を分ける」「先に自分で訳してから比べる」「原文を先に読む」「翌日に訳を見ずに書く」の4つを決めておきます。どれもお金はかかりません。
「内容を知りたい時間」と「学ぶ時間」を分ける
急ぎのメールや資料は、訳文で読んでかまいません。試験でも、訳文で読んで理解の点は落ちていませんでした。その代わり、1日のうち語学のための時間を決めて、その時間だけは訳を後回しにします。
目安 1日15分の「訳を後回しにする時間」
先に自分で訳してから、AIの訳と比べる
1〜2文でいいので、まず自分で訳すか、言いたいことを外国語で書いてみます。そのあとAIの訳と並べて、違う所に印をつけます。間違えても、先に答えようとしたほうが記憶に残りやすいという実験があります。
目安 1回5〜10分
原文と訳を並べるなら、原文を先に読む
対訳の表示では、まず原文だけを読み、わからない語に印をつけてから訳を見ます。並べただけの組は、原文だけの組に届きませんでした。訳の側を隠せる表示なら、隠しておきます。
目安 1段落ごとに
覚えたい表現を5つ選び、翌日に訳を見ずに書く
その日に出会った単語や言い回しを5つメモしておき、翌日、日本語だけを見て外国語で書けるか試します。書けなかった語だけ、もう一度原文で確かめます。
目安 翌日に3分
AIに頼りながら書く力を残すコツは、AIに頼りすぎて、文章が書けなくならないか心配にまとめています。
05よくある質問
AI翻訳を使っていると、語学力は落ちる?
落ちるかどうかを長く追った研究は、まだ見つかりませんでした。わかっているのは、訳文だけで読むと、その場の理解は変わらなくても、原文の単語が記憶に残りにくい可能性があることです。中国の医学生160人の試験では、訳文だけで読んだ組が1週間後に英語の用語を最も書けませんでした。
原文と訳を並べて表示すれば、大丈夫?
並べるだけでは足りない可能性があります。同じ試験で原文と訳を並べた組は、訳文だけの組と原文だけの組の中間の点で、原文だけの組には届きませんでした。研究者は、楽な訳のほうばかり読んでしまった可能性を挙げています。原文を先に読み、わからない所だけ訳を見るほうが無難です。
仕事でAI翻訳を使うのは、やめたほうがいい?
やめる必要はありません。急いで内容をつかみたい場面では、訳文でも理解の点は変わりませんでした。語学を身につけたい時間と、内容を知りたい時間を分けて、前者だけ訳を後回しにするのが現実的です。
出典
- Shen Y, Li F, Zhang Q, Zhang Y, Ren Y, Liu W, Liu Y (2026). The translation paradox: how full translation increases cognitive load and impairs medical vocabulary retention. BMC Medical Education, 26, 1131. https://doi.org/10.1186/s12909-026-09472-5
- Bastani H, Bastani O, Sungu A, Ge H, Kabakcı Ö, Mariman R (2025). Generative AI without guardrails can harm learning: Evidence from high school mathematics. Proceedings of the National Academy of Sciences, 122(26), e2422633122. https://doi.org/10.1073/pnas.2422633122
- Kornell N, Hays MJ, Bjork RA (2009). Unsuccessful retrieval attempts enhance subsequent learning. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 35(4), 989-998. https://doi.org/10.1037/a0015729
- Rowland CA (2014). The effect of testing versus restudy on retention: a meta-analytic review of the testing effect. Psychological Bulletin, 140(6), 1432-1463. https://doi.org/10.1037/a0037559
- Yang S (2025). Understanding EFL learners' excessive use of translation software: An extension of the flow theory. PLoS One, 20(11), e0335610. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0335610


