AIが議事録をとってくれるなら、自分のメモはもういらない?研究では、メモを取りながら聞いた人のほうが内容を覚えていた。要点だけは自分の言葉で書く

オンライン会議でAIが文字起こしと議事録を作ってくれるようになり、「もう自分でメモを取らなくていいのでは」と感じている人は少なくありません。記録としては心強い一方で、会議のあとに「何が決まったんだっけ」と思い出せないこともあります。AIの議事録そのものを調べた研究はまだ見つかりませんでしたが、メモを取ることと記憶の関係は長く研究されてきました。この記事では、その研究から、AIの記録と自分のメモをどう分けるかを整理します。
3行でわかる
- 45分の講義を聞いた172人の実験では、メモを取りながら聞いた人は、聞くだけの人より直後のテストで多く正解し、気がそれることも少なめでした。
- 話をそのまま書き写すより、自分の言葉で言い換えるほうが学びにつながるという研究がある一方、手書きかパソコンかで差は出なかったという追試もあります。
- AIの議事録は「あとで確かめる記録」として使い、会議中は決まったことと自分の担当だけを自分の言葉で3〜5行書く、と分けておくのが一つの備えです。
01 結論から言うとAIの議事録があれば、自分のメモはいらない?
記録のためのメモはAIに任せてよくても、内容を頭に残すためのメモは別に考えたほうがよさそうです。聞きながらメモを取った人のほうが内容をよく覚えていた実験があります。ただし、AIの議事録で直接確かめた研究はまだありません。
メモには、2つの役割があると考えられてきました。1つは、あとで読み返すための「記録」。もう1つは、書くために話を聞き分け、自分の言葉にする過程で内容が頭に入る「覚える作業」です。
AIの議事録が肩代わりしてくれるのは、主に1つめの記録の役割です。2つめの覚える作業は、聞いている本人の頭の中でしか起きません。だから「議事録があるから聞き流してよい」とは言い切れない、というのがこの記事の結論です。AIに任せたことが記憶に残りにくい問題は、姉妹メディアのスマホに頼って物忘れが増えた気がするでも扱っています。
02 研究とデータでわかっていることメモを取ると、どのくらい覚えている?
45分の講義の実験では、28問のテストの平均正解数が、メモを取った人で19.09問、聞くだけの人で16.63問でした。言い換えて書くほど学びにつながるという研究もありますが、手書きの優位は追試で確かめられませんでした。
Spencer-MuellerとFenske / Quarterly Journal of Experimental Psychology(2024)[1]
録音された45分の大学の講義を、4つの組に分かれて聞いてもらいました。メモを取る組、図形を塗りつぶす落書きの組、自由な落書きの組、聞くだけの組です。講義の直後に28問の選択式テストをすると、平均正解数はメモの組が19.09問で最も多く、聞くだけの組は16.63問、図形の塗りつぶしの組は15.95問、自由な落書きの組は15.69問でした。
講義の途中で「今どのくらい集中しているか」をたずねると、メモの組は聞くだけの組より気がそれたという回答が少なく、注意を向けていたという回答が多くなっていました。テストは講義が終わってすぐ、いくつかの質問票に答えたあとに行われました。
対象: カナダの大学の学生172人(各組43人) / 限界: 講義を一方的に聞く場面で、発言しながら進む会議とは状況が違う。テストは直後の1回だけで、数日後の記憶は調べていない。
MuellerとOppenheimer / Psychological Science(2014)[2]
3つの実験で、パソコンでメモを取った学生は、手書きの学生より、内容の理解を問う問題の成績が低くなりました。研究者は、パソコンだと講義をそのまま書き写しやすく、自分の言葉で言い換えないことが学びを妨げていると考えました。一方で、メモの量が多いこと自体はプラスになりうるとしています。
対象: 米国の大学生 / 限界: 手書きが有利という結果は、下の追試では確かめられなかった。
Urryら / Psychological Science(2021)[3]
上の研究の実験1を、同じ手順でやり直しました。パソコンの人(74人)は手書きの人(68人)より、講義の言葉をそのまま写した部分が多く、メモの量も多くなりました。ここまでは元の研究と同じです。しかし小テストの成績に差はなく、似た8つの研究をまとめた分析でも同じ傾向でした。
元の研究と追試のどちらでも、メモの量が多いほど成績はよく、そのまま写した割合が高いほど成績は低い傾向がありました。ただし後者は、追試では安定した結果ではありませんでした。
対象: 米国の大学生142人 / 限界: 講義のすぐあとの小テストで、見返したあとの学習効果は調べていない。
もう一つ、「道具に記録を任せる」ことの手がかりになる研究があります。
Henkel / Psychological Science(2014)[4]
美術館の見学で、作品を見るだけの場合と、作品全体を写真に撮る場合を比べました。全体を撮った作品は、見るだけの作品より覚えている数が少なく、細かい特徴や置かれていた場所の記憶も弱くなりました。ところが、作品の一部にズームして撮った場合は、この記憶の落ち込みが見られませんでした。
対象: 美術館の見学に参加した実験の参加者(2つの実験) / 限界: 写真撮影の研究で、文字の記録や会議とは違う。一部に注目して撮ることが記憶の落ち込みを防いだ可能性を示すが、会議で同じことが起きるかはわからない。
03 まだわかっていないことAIの議事録で、本当に記憶は落ちる?
まだわかっていません。AIの議事録がある会議で、参加者の記憶や理解がどう変わるかを調べた研究は見つかりませんでした。ここで紹介した研究は、どれも講義や見学の場面での間接的な手がかりです。
- AIの議事録や文字起こしがある会議で、参加者の記憶を測った研究は今回見つかりませんでした。
- 研究の多くは、講義を聞く大学生が対象です。自分も発言する会議や、働く大人で同じ結果になるかは確かめられていません。
- テストは講義の直後に行われたものが中心です。あとで議事録やメモを見返した場合に、最終的な理解がどう変わるかははっきりしません。
- 手書きとパソコンのどちらがよいかは、研究によって結果が分かれています。
04 今日からできることAIの議事録と自分のメモ、どう分ける?
AIの議事録は「あとで確かめる記録」と割り切り、会議中は決まったこと・自分の担当・気になった点だけを自分の言葉で短く書きます。会議のあとに議事録と見比べると、抜けや聞き違いにも気づけます。
会議の前に「持ち帰ること」を1行書く
「この会議で自分が知りたいこと」「決めたいこと」を1行だけ書いておきます。どこに注目するかを自分で選んでおくと、聞き分けやすくなります。写真の研究でも、作品の一部に注目して撮ったときは記憶の落ち込みが見られませんでした[4]。
目安 会議の前に1分
会議中は、要点を自分の言葉で3〜5行だけ書く
発言をそのまま写す必要はありません。それはAIの記録に任せます。「決まったこと」「自分の担当と期限」「あとで聞きたいこと」を、短く言い換えて書きます。手書きでもパソコンでもかまいません[3]。
目安 会議1回につき3〜5行
会議のあとに、議事録と自分のメモを見比べる
AIの議事録を開き、自分のメモと食い違うところや、メモにない決定事項がないかを確かめます。AIの要約は条件や例外を落とすことがあるので、大事な決定は文字起こしの元の発言でも確認します。
目安 会議のあとに5分
AIの要約だけを読んで大事な点を落とした場合の対処はAIの要約だけ読んで会議に出たら、抜けていた大事な点を指摘されたで、AIで作った資料を自分の言葉で説明できなかったときのことはAIで作った資料なのに、質問されて答えられなかったで整理しています。
05よくある質問
手書きとパソコン、どちらでメモを取るほうがいい?
直後の小テストで比べた追試では、パソコンと手書きで成績に差はありませんでした。道具よりも、話をそのまま写すのではなく、自分の言葉で要点を書くことのほうが手がかりになりそうです。
AIの議事録が正確なら、あとで読めば十分では?
記録としては役に立ちます。ただ、ここで紹介した実験では、聞いている間にメモを取ったかどうかで、直後に覚えている量が変わっていました。あとで読む記録と、その場で頭に残す作業は役割が違うと考えると整理しやすくなります。
メモを取ると、話を聞くのがおろそかにならない?
172人の実験では逆でした。メモを取りながら聞いた人は、聞くだけの人より気がそれた程度の自己評価が低く、注意を向けていたという評価が高くなっていました。
出典
- Spencer-Mueller, E. K., & Fenske, M. J. (2024). Note-taking for the win: Doodling does not reduce boredom or mind-wandering, nor enhance attention or retention of lecture material. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 77(8), 1780–1796. https://doi.org/10.1177/17470218231222402
- Mueller, P. A., & Oppenheimer, D. M. (2014). The pen is mightier than the keyboard: Advantages of longhand over laptop note taking. Psychological Science, 25(6), 1159–1168. https://doi.org/10.1177/0956797614524581
- Urry, H. L., et al. (2021). Don't ditch the laptop just yet: A direct replication of Mueller and Oppenheimer's (2014) Study 1 plus mini meta-analyses across similar studies. Psychological Science, 32(3), 326–339. https://doi.org/10.1177/0956797620965541
- Henkel, L. A. (2014). Point-and-shoot memories: The influence of taking photos on memory for a museum tour. Psychological Science, 25(2), 396–402. https://doi.org/10.1177/0956797613504438


