AIに給料の相場や交渉で言う額を聞いても大丈夫?研究では、同じ質問でもAIの版が違うだけで勧める額が約4割変わり、聞く立場や専攻、性別でも差が出ていた

転職や内定のあと、「自分の希望額はいくらと言えばいいか」をAIに聞く人は少なくありません。数字をはっきり出してくれるので、つい頼りたくなります。けれど研究では、AIが勧める給料の額は、同じ質問でもAIの版や聞く立場によって大きく変わり、性別や出身大学、専攻でも差が出ていました。AIの数字は相場の答えではなく、確かめる前のたたき台として扱うのが安全です。
3行でわかる
- 米国のIT職を想定した実験では、まったく同じ質問でも、ChatGPTの版が新しくなるにつれて勧める額が上がり、古い版と新しい版で中央値が約4割違いました。
- 働く側として聞くか、雇う側として聞くかでも額は大きく変わりました。性別を変えるだけの差は約1%と小さかった一方、専攻や出身大学ではもっと大きな差が出ていました。
- AIの額は、公的な賃金統計や実際の求人の額と並べて確かめます。性別や学校名など額に関係ないはずの情報は入れず、AIは伝え方の練習に使うのが向いています。
01 結論から言うとAIに聞いた給料の額は、そのまま信じていい?
そのまま信じるのは避けたほうが安全です。研究では、同じ条件で聞いても、AIの版や聞く立場で勧める額が大きく変わり、性別・大学・専攻でも差が出ていました。AIの額は、公的な統計や求人と照らし合わせる前のたたき台にとどめます。
給料の交渉で最初に言う額には、「いくらが正解」という答えがありません。相場だけでなく、どこまで強気に出るかという判断も混ざるからです。
AIは、そうした答えのない質問にも、迷わず1つの数字を返します。もっともらしく見えますが、その数字がどの統計にもとづくのかは、画面からはわかりません。仕事でAIの答えをそのまま使ってよいかの考え方は「仕事でAIに作らせた文章や資料、そのまま出して大丈夫?」にもまとめています。
02 研究とデータでわかっていることAIが勧める給料の額は、何によって変わる?
研究では、AIが勧める額は、AIの版、働く側か雇う側か、専攻や出身大学によって大きく変わりました。性別だけを変えたときの差は約1%と小さめでしたが、どの版でも統計的に意味のある差がありました。
Geigerら(2025)[1]
ChatGPTの4つの版に、「新卒で採用された人が、給料の交渉で最初に言う額はいくらか」を聞きました。性別・大学・専攻を入れ替えながら、1つの版につき9万8,800回質問しています。
最も大きな差は、版の違いと、働く側か雇う側かの違いでした。働く側の質問では、新しい版ほど高い額を勧め、最も古い版と最新の版で中央値が約40%違いました。働く側と雇う側の両方が同じ版に従うと、交渉の出発点が中央値で2万5,000ドル離れる版もありました。
性別の代名詞を変えると、すべての版で統計的に意味のある差が出ましたが、平均約1,000ドル(約1%)でした。専攻では、文学専攻はコンピューター科学専攻より低い額を勧められていました。架空の大学や、学位を売る業者として閉鎖された大学を入れても、どの版も額を答えていました。
対象: 米国サンフランシスコ湾岸地域のIT企業の職を想定した、英語の質問(2024年6月に実施) / 限界: 日本語や日本の給料で同じ結果になるかはわかりません。著者らも、この結果だけでAIが偏っている・いないを断定はできないとしています。
Guilbeaultら(2025)[2]
ChatGPT(GPT-4o mini)に、54の職業について名前だけを変えた履歴書を3万4,560通作らせました。女性の名前のときは、男性の名前より年齢が1.6歳若く、関連する経験が0.92年短く書かれていました。
同じAIに履歴書を1〜100点で採点させると、書かれた年齢が高いほど点が高い傾向がありました(相関係数0.27)。最も高い点がついたのは、年上の男性の履歴書でした。
対象: 米国の職への応募を想定した英語の履歴書(2024年6月に作成・採点) / 限界: 給料の額そのものではなく、AIが経歴をどう想定し、どう評価するかを調べた研究です。
Quら(2025)[3]
中国の求人サイトに登録された約690万通の履歴書(2014〜2015年)を分析すると、男女で書き方がはっきり違い、文章だけから性別を約80%の精度で当てられました。
文章の力が高い人ほど希望する給料も高い傾向がありましたが、女性の多い職業では、この結びつきが女性で弱く、男性で強くなっていました。
対象: 中国の求職者の履歴書 / 限界: AIの答えではなく、人が書いた履歴書と希望額の研究です。AIの学習に使われる文章にも、こうした差がありうることを示す背景として紹介しています。
研究を、AIに給料を聞くときの疑問に当てはめると、次のとおりです。
| 気になること | 研究でわかったこと |
|---|---|
| 同じ質問なら、同じ額が返る? | 版が違うだけで中央値が約40%違った[1] |
| 働く側と雇う側で、額は同じ? | 働く側の質問のほうが、すべての版で高かった[1] |
| 性別で額は変わる? | 差は約1%と小さいが、すべての版で出た[1] |
| 学校や専攻で額は変わる? | 専攻では性別より大きな差があり、架空の大学にも額を答えた[1] |
| 名前だけで、AIの想定は変わる? | 女性の名前では、より若く経験の短い経歴が書かれた[2] |
03 まだわかっていないこと日本語で聞いた給料の額も、同じようにぶれる?
まだわかっていません。今回の研究は米国の英語の質問と2024年の版で、日本語で日本の給料を聞いたときに、どれだけぶれるかを調べた研究は見つかりませんでした。
- 日本語で、日本の職種や地域の給料を聞いたときの推奨額のぶれや偏りを調べた研究は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。
- AIの勧めに従って交渉した人の給料が、実際に上がったか下がったかを追った研究も見つかりませんでした。
- AIは版の更新が早く、2024年の版の結果が今のAIにも当てはまるかはわかりません。研究では、新しい版で偏りが必ず小さくなるわけではありませんでした。
04 今日からできることAIを給料の交渉に使うなら、どう使う?
AIの額は確かめる前のたたき台にし、公的な統計や実際の求人の額と並べます。同じ質問を立場を変えて聞き、ぶれ幅を見ます。額に関係のない個人の情報は入れず、AIは伝え方の練習に使います。
AIの額を、公的な統計や求人の額と並べる
厚生労働省の賃金構造基本統計調査など、職種・年齢ごとの公的な賃金統計や、同じ職種・地域の求人に書かれた額を2〜3件集め、AIの額と横に並べます。大きく外れていたら、AIの額は使いません。
目安 20〜30分
立場を変えて聞き、ぶれ幅を見る
「働く側として」「採用する側として」の2通りで同じ条件を聞き、額の差を見ます。差が大きいほど、その数字は根拠の弱いものだと考えます。
目安 10分
性別や学校名など、額に関係ないはずの情報は入れない
研究では、性別・大学・専攻を入れ替えるだけで額が変わりました。聞くときは、職種・経験年数・地域・仕事の中身だけにします。
目安 その場で
AIは「金額」より「伝え方」の練習に使う
額は自分で集めた根拠から決め、AIには「この根拠を、角が立たない言い方で伝える文」の下書きや、想定される質問の練習を頼みます。
目安 15分
応募先がAIで書類を選ぶ場合の偏りは「AIの面接や書類選考で落とされたかもしれない」、AIが示す数字が聞くたびに変わる例は「健康診断の結果、AIに読み解いてもらっても大丈夫?」でも紹介しています。
05よくある質問
AIに聞いた給料の相場は、日本でも当てにならない?
日本語で日本の給料を聞いたときの研究は、まだ見つかっていません。米国の研究では、同じ質問でも版や立場で額が大きく変わりました。日本でも、公的な賃金統計や実際の求人の額と照らし合わせてから使うのが安全です。
新しいAIを使えば、偏りやぶれはなくなる?
研究では、新しい版ほど勧める額が高くなる傾向があり、版ごとに偏りの向きや大きさも違いました。新しい版で偏りが必ず小さくなるとは限らないため、版にかかわらず確かめる手順をはさみます。
名前や性別を書かなければ、偏りは避けられる?
一部は減らせます。研究では、代名詞や名前を変えるだけで額や経歴の想定が変わりました。ただ、専攻や大学でも差が出ていたので、情報を減らしたうえで、ほかの根拠と並べて確かめます。
出典
- Geiger RS, O'Sullivan F, Wang E, Lo J (2025). Asking an AI for salary negotiation advice is a matter of concern: Controlled experimental perturbation of ChatGPT for protected and non-protected group discrimination on a contextual task with no clear ground truth answers. PLoS One, 20(2), e0318500. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0318500
- Guilbeault D, Delecourt S, Desikan BS (2025). Age and gender distortion in online media and large language models. Nature, 646, 1129–1137. https://doi.org/10.1038/s41586-025-09581-z
- Qu Q, Liu QH, Gao J, et al. (2025). Gender differences in resume language and gender gaps in salary expectations. Journal of the Royal Society Interface, 22(227), 20240784. https://doi.org/10.1098/rsif.2024.0784


