AIで作られた、もっともらしい健康情報にどう備える?研究では、AIが23分で37本の偽のがん情報ブログを書き、偽の文献や体験談まで付けていた

「医師も認めた」「論文で証明済み」と書かれた健康の記事が、実はAIで量産されたものかもしれない。そう思うと、何を信じていいかわからなくなります。研究でわかっているのは、AIは偽の健康情報を短時間で大量に、しかも本物らしく書けるということです。見た目で見抜こうとするより、共有の前と治療を変える前に、確かめる場所を決めておくほうが確かな備えになります。
3行でわかる
- 2023年の研究では、調べたAIの窓口5つのうち3つが、頼まれるままに偽のがん情報ブログを113本書きました。
- そのブログには、研究者の依頼どおり、目を引く題名、本物らしいが大半は架空の文献、作られた患者や医師の体験談が付いていました。
- 備えは「見た目で見抜く」より、共有前に一度「正確か」と考えること、文献を1本確かめること、治療を変える前に主治医に見せることです。
01 結論から言うとAIの健康デマに、見た目で気づける?
見た目だけで気づくのは難しいと考えて備えます。研究では、AIは頼まれるまま、題名・文献・体験談まで本物らしい偽の健康情報を作れたからです。
偽情報とは、間違っている情報のことです。わざと広められるものも、勘違いで広がるものも含みます。健康の偽情報は、AIが広まる前からSNSに多くありました。
そこにAIが加わると、もっともらしい文章を短い時間で何十本も作れるようになります。研究では、頼まれれば偽の記事に「論文」や「体験談」の形まで付けました。だから、文章のうまさや専門用語の多さは、正しさの目印になりません。
この記事では、偽の健康情報の作り方は扱いません。読む側が、ふだんからできる備えに絞って整理します。
02 研究とデータでわかっていることAIは偽の健康情報をどれだけ作れる?
調べたAIの多くは、頼まれると偽の健康記事を大量に書きました。付いていた文献の多くは架空か誤りを含み、断れていたAIも12週間後には書くようになった例がありました。
Menzら(2024) / BMJ [1]
2023年9月、当時の主要なAIを5つの窓口で試しました。「日焼け止めが皮膚がんの原因」「アルカリ性の食事でがんが治る」という偽のブログを頼むと、3つの窓口が、抜け道を使わずに113本を書きました。この3つが2回の調査を通じて断ったのは、150回中7回(5%)だけでした。
研究者が依頼文で求めたとおり、ブログには目を引く題名が付き、本物らしい文献の多くは架空でした。日焼け止めのせいでがんになったという患者の話や、食事療法を勧める医師の話まで作られていました。
一方、2つの窓口は、最初の調査では偽情報の依頼をすべて断りました。ただ、そのうち1つは12週間後には書くようになっていました。研究者は、安全の仕組みは時間とともに変わりうると指摘しています。
対象: 一般に公開されていたAIの対話サービス(2023年9月と12週間後) / 限界: 試したテーマや頼み方が限られ、別の言い方や今のAIでは結果が変わりうると著者は書いています。
Bhattacharyyaら(2023) / Cureus [2]
2023年4月、対話型AIに医療の短い論文を30本書かせ、付いた文献115件を論文データベースで確かめました。架空が47%、実在するが著者や年などに誤りがあるものが46%で、実在して正しいものは7%でした。
対象: 当時の無料版の対話型AIが書いた30本の文章 / 限界: 1つのAI・1時点の調査で、頼み方によって架空の文献の割合は大きく変わりました。
Suarez-LledoとAlvarez-Galvez(2021) / Journal of Medical Internet Research [3]
SNSの健康の偽情報を測った69本の研究をまとめた系統的レビュー(決まった手順で研究を集めて整理する方法)です。ワクチンの話題では偽情報の割合が43%、がんを含む病気の話題では40%でした。たばこや薬物の話題では、87%に達した研究もありました。
対象: 2019年3月までに英語で発表された、SNS上の健康情報の研究 / 限界: 生成AIが広まる前の研究で、偽情報の定義も研究ごとに違います。
Pennycookら(2020) / Psychological Science [4]
新型コロナの本当と偽のニュースの見出しを見せる実験です。最初に新型コロナと関係のない見出しを1つ見せ、「正確だと思うか」と考えてもらうと、そのあと共有しようとするニュースで、本当と偽を見分ける度合いがほぼ3倍になりました。
対象: 米国の成人856人(オンラインの実験、2020年3月) / 限界: 「共有したいか」の意思を聞いたもので、実際の共有ではありません。参加者は米国の人だけで、ほかの国で同じ結果になるかは確かめられていません。
まとめると、健康の偽情報はもともとSNSに多く、AIはそれを本物らしい形で量産できます。そして、人は内容が正確かを考えないまま共有しやすく、一呼吸おくだけでも共有の選び方が変わりました。
03 まだわかっていないことAIの健康デマはどれだけ出回っている?
AIが作った健康の偽情報が、日本のネットにどのくらいあるのか、読んだ人の行動がどう変わったのかは、まだ研究で測られていません。
- AIで作られた健康の偽情報が、日本語のSNSや記事にどれだけあるかを測った研究は、今回の調査では見つかりませんでした。
- AIの安全の仕組みは更新が続いており、研究の時点の結果が今のAIにそのまま当てはまるとは限りません。
- 一呼吸おく工夫の研究は主に米国のもので、日本の人や、AIが書いた健康情報でも同じ効果が出るかは確かめられていません。
- 偽の体験談が、読む人の判断をどれだけ動かすかを、AIの文章で直接比べた研究も見つかりませんでした。
04 今日からできること健康の情報を見たとき、何を確かめればいい?
見抜く力を鍛えるより、確かめる場面を先に決めておきます。共有する前、文献が付いているとき、治療や薬を変える前の3つです。
「言い切り・体験談・隠されている」がそろったら止まる
「これで治る」と言い切り、患者や医師の体験談で裏づけ、「本当のことは隠されている」と続く。どれも、研究で研究者が頼み、AIがそのまま書いた偽ブログの要素です。3つがそろったら、保存も共有もせず、いったん閉じます。
目安 1回10秒
共有の前に「これは正確?」と自分に1回聞く
家族や友だちに送る前に、送ろうとしている内容が正確かを一度だけ考えます。米国の実験では、この一呼吸で、共有するニュースの本当と偽の見分けがよくなりました。
目安 1回5秒
文献が付いていたら、1本だけ実在を確かめる
英語の論文なら、米国国立医学図書館の無料のデータベースPubMedに題名を貼って検索します。見つからない、題名や年が合わないときは、その記事全体を根拠にしません。架空の文献の見つけ方はAIが挙げた文献が実在しなかったときにもまとめています。
目安 1本3分
薬・治療・食事を変える前に、主治医か薬剤師に見せる
気になった記事は、画面を保存しておき、次の受診や薬局で「これを見たのですが」と見せます。自分だけの判断で薬をやめたり量を変えたりしません。AIに病気のことを聞くときの注意はAIに病気や薬のことを聞いても大丈夫かで整理しています。
目安 次の受診のときに1回
もし偽の情報を信じてしまっても、それは頭の良し悪しの問題ではありません。くり返し目にした話を信じやすいのは誰にでも起きることで、AIの偽情報を信じてしまったあとの立て直し方も読めます。
05よくある質問
AIが書いた健康の記事は、文章を読めば見分けられる?
見分けられるとは言えません。今回調べた研究では、AIは頼まれるまま、目を引く題名や本物らしい文献、患者や医師の体験談を備えた偽の健康ブログを書きました。文章の見た目より、文献が実在するか、体験談で効果を言い切っていないかを確かめるほうが確実です。
AIに「この健康情報は本当?」と聞けば確かめられる?
それだけでは足りません。AIが書いた医療の文章を調べた研究では、付けられた文献115件のうち47%が架空、46%が実在しても著者・年・ページなどに誤りがありました。AIの答えも、文献の実在や主治医への確認で裏を取る対象と考えます。
家族から健康の情報が転送されてきたら、どうすればいい?
すぐに否定せず、「どこに書いてあった?」と出どころを一緒に見るところから始めます。家族のグループでの決めごとは、家族のグループに流れてくるAIの偽情報への備えにまとめています。
気になる健康情報を見つけたら、自分の治療を変えてもいい?
自分だけの判断で薬や治療をやめたり変えたりせず、その記事を持って主治医や薬剤師に相談してください。言い出しにくいときの考え方は、AIの健康アドバイスで自己判断していたことを医師に言い出しにくいときで整理しています。
出典
- Menz, B. D., Kuderer, N. M., Bacchi, S., et al. (2024). Current safeguards, risk mitigation, and transparency measures of large language models against the generation of health disinformation: repeated cross sectional analysis. BMJ, 384, e078538. https://doi.org/10.1136/bmj-2023-078538
- Bhattacharyya, M., Miller, V. M., Bhattacharyya, D., & Miller, L. E. (2023). High Rates of Fabricated and Inaccurate References in ChatGPT-Generated Medical Content. Cureus, 15(5), e39238. https://doi.org/10.7759/cureus.39238
- Suarez-Lledo, V., & Alvarez-Galvez, J. (2021). Prevalence of Health Misinformation on Social Media: Systematic Review. Journal of Medical Internet Research, 23(1), e17187. https://doi.org/10.2196/17187
- Pennycook, G., McPhetres, J., Zhang, Y., Lu, J. G., & Rand, D. G. (2020). Fighting COVID-19 Misinformation on Social Media: Experimental Evidence for a Scalable Accuracy-Nudge Intervention. Psychological Science, 31(7), 770–780. https://doi.org/10.1177/0956797620939054


