仕事の手順をAIに覚えさせる役を頼まれた。自分の代わりを育てるようで不安。研究では、AIと組む仕事が多い人ほど雇用の不安が高く、情報の共有と相談がある職場では仕事の意味を感じやすかった

職場でAIを入れることになり、「あなたの仕事の手順を、AIが使えるようにまとめてほしい」と頼まれた。手順を渡しきったら、自分はいらなくなるのではないか。そう感じて手が止まるのは、おかしなことではありません。研究では、AIと組む仕事が増えるほど雇用の不安が高まりやすく、その不安は知識を出し渋る行動と結びついていました。結論は、断るか全部渡すかの二択で悩む前に、「何に使うのか」「自分の役割はどう変わるのか」を確かめ、記録を残しながら進めることです。
3行でわかる
- 技術による雇用の不安を調べた91本の研究(計4万3,104人)のまとめでは、不安が強い人ほど長い目で見た心の健康が低く、変化への抵抗や知識を隠すなどの行動が多い傾向がありました。
- 中国の348人を3回調べた研究では、AIと組む仕事が多い人ほど雇用の不安が高く、不安が高い人ほど知識を隠す行動が多くなっていました。AIへの信頼が高い人では、この結びつきは弱まりました。
- イタリアの168人の調査では、AIの導入で「情報の共有・相談・研修」があると感じる人ほど、仕事に意味を感じていました。まず使い道と自分の役割を確かめ、渡した内容を記録しておきます。
01 結論から言うと仕事の手順をAIに教えたら、自分は不要になる?
手順を教えたことで仕事がなくなるかどうかは、研究ではまだわかっていません。わかっているのは、不安を抱えたまま進めると心の負担や出し渋りにつながりやすいことです。まず使い道と役割の変化を確かめます。
業務の手順書づくり、よくある質問と答えの整理、過去の対応例の入力。AIを職場に入れるとき、こうした作業を、その仕事にいちばん詳しい人が頼まれることがあります。頼まれた側が「自分の代わりを育てている」と感じるのは自然なことです。
ただ、職業ごとの研究では、多くの仕事は「なくなる」より「中身が変わる」と見られています(AIに仕事を奪われるのは本当?)。手順をまとめる作業そのものが、あなたの仕事の終わりを意味するとは限りません。
一方で、不安を我慢して黙って進めるのもおすすめしにくい方法です。このあと紹介する研究では、雇用の不安は心の健康の低さと結びつき、知識を出し渋る行動とも結びついていました。出し渋りは、職場からは「協力しない人」に見えかねません。不安を言葉にして、確かめられることを確かめるほうが、自分を守りやすくなります。
02 研究とデータでわかっていることAIに仕事を渡すときの不安は、何と結びつく?
技術による雇用の不安は、91本の研究のまとめで心の健康の低さと結びついていました。AIと組む仕事が多い人ほど不安が高く、知識を隠す行動も多めでした。導入の情報や相談の機会がある職場では、仕事の意味を感じやすい傾向がありました。
Liang・Wong / Behavioral Sciences(2026)[1]
AIやロボットなどの技術による雇用の不安を調べた91本の研究(96の集団、計4万3,104人)をまとめました。不安が強い人ほど、仕事への気持ち(満足ややりがいなど)が低く(−0.41)、燃え尽きや不安などを含む長い目で見た心の健康も低い(−0.33)傾向がありました。すぐに出るストレス(0.41)、変化への抵抗や知識を隠すなどの行動(0.38)、辞めたい気持ちなど仕事から距離を取る行動(0.34)は多い傾向でした。一方、自分から工夫して動く行動とは、はっきりした結びつきが見られませんでした。
対象: 2000年〜2025年6月に発表された、英語で読める各国の研究 / 限界: もとの研究の多くは一時点の調査で、不安が原因だとは言い切れない。研究ごとの差も大きい。
Liら / Behavioral Sciences(2025)[2]
中国の知識を扱う会社(IT・金融・製造)で働く348人に、2025年6月に3回分けて答えてもらいました。AIと組んで働く度合いが高い人ほど雇用の不安が高く、不安が高い人ほど、同僚に聞かれた知識を隠したりはぐらかしたりする行動が多くなっていました。ただし、AIを信頼している人では、AIと組む仕事が雇用の不安に結びつく度合いが弱くなっていました。
対象: 中国東部・中部の会社員348人 / 限界: 本人の回答だけによる調査で、回答の間隔も短い。ほかの国に当てはまるかはわからない。
Jeongら / International Journal of Environmental Research and Public Health(2022)[3]
韓国の会社員346人と、その上司346人を3回に分けて調べました。AIに限らず、雇用の不安を感じている人ほど、上司から見て知識を隠す行動が多くなっていました(関連の強さ0.22)。不安が会社への一体感を下げることが、その一因と考えられました。上司が相談に乗り、成長を後押しする関わり方(コーチング)をしている職場では、不安が一体感を下げる度合いが小さくなっていました。
対象: 韓国の会社で働く人と直属の上司 / 限界: AIの導入を直接調べた研究ではない。雇用の不安は本人の感じ方だけで測っている。
Gemmanoら / Behavioral Sciences(2026)[4]
仕事でAIを使っているイタリアの事務系の会社員168人を調べました。AIの導入にあたって、職場が情報を共有し、働く人に相談し、研修を用意していると感じる人ほど、仕事に意味を感じていました(相関0.27)。仕事の満足度とも結びついていました(0.33)。この結びつきは、AIに前向きな人ほど強く、AIに否定的な人でははっきりしませんでした。
対象: イタリアのサービス業の会社員(4分の3が大卒) / 限界: 一時点のネット調査で、因果は言い切れない。結びつきの強さは控えめ。
4つの研究は、「仕事の手順をAIに教える役を頼まれた人」だけを調べたものではありません。ただ、どれも同じ方向を示しています。不安は心の負担や出し渋りと結びつき、情報や相談の機会があると受け止め方が変わりうる、ということです。
03 まだわかっていないこと手順を教えた人は、その後どうなるのか?
まだわかっていません。手順をAIに教えた人のその後の仕事や評価を追った研究は見つかりませんでした。研究の多くは中国や韓国の一時点に近い調査で、日本の職場に当てはまるかも確かめられていません。
- 仕事の手順をAIに教える役を担った人が、その後に仕事を失いやすいのか、逆に新しい役割を任されやすいのかを追った研究は見つかりませんでした。
- 紹介した研究は中国・韓国・イタリアなどの調査で、日本の職場や雇用の仕組みで同じ結びつきが出るかはわかっていません。
- 多くは本人の回答による調査で、「不安だから出し渋る」のか「出し渋っているから不安になる」のか、向きははっきりしません。
- 職場の説明や相談の機会を増やすと不安が減るのかを、実際に試して確かめた研究はまだ少ない状態です。
04 今日からできること手順をAIに教える役を頼まれたら、何をする?
まず上司に使い道と自分の役割の変化を聞き、入れてよい情報の範囲を確かめます。そのうえで、渡した内容と日付を記録し、AIに任せにくい判断を書き出しておきます。不安が強いときは、一人で抱えず相談します。
上司に「4つのこと」を聞いてから始める
「何の作業にAIを使うのか」「自分の担当はどう変わるのか」「この作業は評価にどう入るのか」「いつまでにどこまでやるのか」を聞きます。研究では、導入の情報や相談の機会があると感じる人ほど、仕事に意味を感じやすい傾向がありました。答えはメモかメールで残します。
目安 面談15分
AIに入れてよい情報の範囲を確かめる
お客さんの名前や連絡先、社外秘の資料を手順書に入れてよいかは、職場のルールで決まります。ルールがない場合は、作業の前に担当者に確かめます(職場にAIを使うルールがない)。
目安 確認1回5分
渡した内容と日付を記録しておく
いつ、どの手順を、どんな形で渡したかを一覧にします。どれだけ協力したかを評価面談で説明でき、あとで「言った・言わない」になるのも防げます。
目安 1回3分
AIに任せにくい判断を書き出す
例外のときの判断、相手によって変える対応、ミスに気づくための目のつけどころなどを書き出します。手順書に入れるかどうかは上司と相談し、AIの答えを人が確かめる場面として提案します。自分の仕事のどこに人の判断が残るかが見えてきます。
目安 30分を1回
不安を一人で抱えない
研究では、相談に乗る上司のもとでは不安が会社への一体感を下げにくくなっていました。上司に話しにくければ、人事や労働組合、社内の相談窓口に、記録を持って相談します。
目安 相談1回30分
配置転換や雇用の不安など、職場で解決しにくい労働の相談は、都道府県の労働局などに置かれた総合労働相談コーナーで無料で受け付けています。
AIの導入で担当が変わったあとの慣れ方は、AIの導入で担当が変わり、新しい仕事になじめないで整理しています。
05よくある質問
仕事の手順をAIに教えるのを、断ってもいい?
断れるかどうかは、仕事の内容や雇用契約、就業規則によって変わるため、この記事では判断できません。断るかどうかを決める前に、使い道と自分の役割の変化を上司に確かめ、それでも納得できないときは、人事や労働組合、総合労働相談コーナーに相談してください。
不安なので、手順の一部を伏せておいてもいい?
おすすめしにくい方法です。研究では、雇用の不安は知識を隠す行動と結びついていましたが、隠すことで自分の立場が守られるかは確かめられていません。伏せるより、使い道と役割を確かめ、AIに任せにくい判断を上司と共有するほうが、自分の仕事の価値を伝えやすくなります。
AIに手順を覚えさせたら、すぐに仕事がなくなる?
そうとは限りません。職業ごとの研究では、多くの仕事は「なくなる」より「中身が変わる」と見られています。ただし、手順を教えた人のその後を追った研究はまだないため、自分の担当がどう変わるのかを上司に確かめておくことが大切です。
出典
- Liang J, Wong CH (2026). Navigating the Digital Storm: A Systematic Review and Meta-Analysis of Technology-Induced Job Insecurity, Its Outcomes and Moderators. Behavioral Sciences, 16(9), 1474. https://doi.org/10.3390/bs16091474
- Li YB, Liao TH, Tsai CH, Wu TJ (2025). From Synergy to Strain: Exploring the Psychological Mechanisms Linking Employee–AI Collaboration and Knowledge Hiding. Behavioral Sciences, 16(1), 13. https://doi.org/10.3390/bs16010013
- Jeong J, Kim BJ, Kim MJ (2022). The Impact of Job Insecurity on Knowledge-Hiding Behavior: The Mediating Role of Organizational Identification and the Buffering Role of Coaching Leadership. International Journal of Environmental Research and Public Health, 19(23), 16017. https://doi.org/10.3390/ijerph192316017
- Gemmano CG, Molinaro D, Bellini D, et al. (2026). Making Artificial Intelligence Work at Work: The Role of Human Resource Practices and Personal Attitudes in Fostering Meaningful Work. Behavioral Sciences, 16(2), 238. https://doi.org/10.3390/bs16020238


