事件や災害の生々しい動画が、SNSで流れてきそうで怖い。研究では、見た時間の長さと血の映る映像の多さがそれぞれストレスと結びつき、流れてくる量を前もって減らすことが備えになる

大きな事件や災害が起きると、SNSのおすすめに現場の動画が次々と流れてきます。自分から探していないのに、再生が始まってしまう。また同じことが起きたら、見たくないものまで見てしまいそうで怖い。そう感じている人に向けて、見る前にできる備えを研究から整理します。
3行でわかる
- 米国の4,675人の調査では、事件の後の1週間に関連の報道を1日6時間以上見た人は、現場にいた人以上に強いストレスの症状と結びついていました。
- 見た時間とは別に、血の映る生々しい映像を見た回数の多さも、半年後の心の不調と結びついていました。見る量と中身の両方が関わります。
- 研究者が勧めるのはニュースを断つことではなく、見る時間と見方を先に決め、生々しい動画は開かず広めないことです。
01 結論から言うと生々しい動画を見る前に、何を決めておけばいい?
大きな出来事が起きたときに、どこで・いつ・どのくらい情報を確かめるかを先に決めておくことです。研究では見た時間の長さと生々しい映像の多さがそれぞれ不調と結びついており、量と中身を前もって絞るのが備えになります。
事件や災害の直後は、何が起きたのか知りたくなるのが自然です。ただ、SNSのおすすめは、見続けるほど似た動画を次々と表示します。米国の研究者たちは、ウクライナでの戦争の開始後、画像や動画を見続ける人に、より衝撃の強い画像を表示するアルゴリズム(AIなどで表示を選ぶ仕組み)があったことを指摘しています [3]。
つまり、その場の判断だけで見る量を抑えるのは難しい場面があります。だからこそ、落ち着いているうちに「何かあったらこうする」と決めておくのが現実的です。
02 研究とデータでわかっていること事件の動画を見続けると、心に影響はある?
影響と結びつく、という研究がそろっています。米国の大規模な調査では、関連の報道を長く見た人ほどストレスの症状が強く、血の映る映像をよく見た人ほど半年後の不調も強い傾向がありました。ただし多くは関連を示した調査で、因果は確かめきれていません。
Holman ら(2014)[1]
2013年のボストン・マラソン爆弾事件の2〜4週間後に調査した。事件の前の心の状態や年齢などをそろえて比べると、事件後の1週間に関連の報道を1日6時間以上見ていたことは、現場の近くにいたことよりも強く、急性ストレスの症状と結びついていた。
対象: ボストン(846人)、ニューヨーク(941人)、その他の米国(2,888人)の住民 / 限界: 1回の調査で、報道が症状を生んだのか、つらい人が報道を多く見たのかは区別できない。テレビ・新聞・SNSなどをまとめた時間で、SNSだけの結果ではない。
Thompson ら(2019)[2]
爆弾事件の直後から3年間、同じ人たちを追った。事件の報道を多く見た人ほど、半年後の心的外傷後ストレスの症状が強かった。その症状は2年後の「また悪いことが起きる」という心配につながっていた。さらにその心配が、1年後に別の銃撃事件が起きたときの報道の見すぎと急性ストレスを予測していた。
対象: 米国の全国から選んだ4,165人 / 限界: 自分で答えた報道の時間で、見た中身までは区別していない。米国の大きな事件での結果で、日本の災害でも同じかはわからない。
Holman・Garfin・Silver(2024、研究の整理)[3]
この論文が紹介している同じ研究チームの分析では、爆弾事件の後に血の映る映像を見た回数が多い人ほど、報道を見た時間を考えに入れても、半年後の心的外傷後ストレスの症状、将来のテロへの恐れ、日常生活の不調が強かった。著者は、報道を断つのではなく見る時間と見方を決めること、生々しい動画を見ない・広めないことを勧めている。
対象: 著者らのこれまでの調査や他の研究を集めた論文 / 限界: 研究者の意見を含む整理で、勧めている方法の効果を実験で確かめたものではない。
Garfin ら(2022)[4]
2014年のエボラ出血熱の流行のとき、米国の人たちに報道の見方を聞いた。報道を見た時間が長い人ほど、また遺体などの生々しい映像を多く見た人ほど、恐れや心配が強い傾向があった。
対象: 米国の全国から確率的に選んだ3,447人 / 限界: 1回の調査による関連で、事件や災害の動画とは場面が違う。
Luo ら(2021)[5]
新型コロナの流行初期の中国で、情報を見た時間と心の状態を調べた。見た時間が長い人やSNSで多く情報を得た人ほど急性ストレスが強く、感染した患者の様子を見たことも強いストレスと結びついていた。一方、最新の数字のデータを見たことは、急性ストレス障害の可能性の低さと結びついていた。
対象: 2020年2月3〜10日にオンラインで答えた1,450人 / 限界: 自分から答えた人を集めた調査で、全国の代表ではない。
5つの研究をまとめると、次のように整理できます。
- 見た時間: 長いほど、ストレスの症状と結びついていた(研究1・2・4・5)。
- 見た中身: 血の映る映像や患者の様子など、生々しいものほど不調と結びついていた(研究3・4・5)。
- 数字や事実の情報: 最新のデータを見ることは、むしろ不調の低さと結びついていた(研究5)。
03 まだわかっていないこと見ない工夫に、本当に効果はある?
見る量を減らす工夫そのものの効果は、まだ実験で確かめられていません。PNASの論文の著者も、見る量を抑える方法やAIで作られた映像への反応は、これからの研究課題だとしています。
- 見る時間を決めたり、自動再生を止めたりしたときに、ストレスが実際に減るかを試した研究は見つかりませんでした。
- AIで作られた偽の事件や災害の映像でも、本物と同じように心に影響するかはわかっていません。
- 研究の多くは米国や中国の大きな出来事の後の調査で、日本の地震や豪雨のときに同じ結果になるかは確かめられていません。
- 何度も見ると慣れて平気になるのか、かえって敏感になるのかも、研究者の間で答えが出ていません。
04 今日からできること流れてくる動画を減らすには、何をする?
落ち着いているうちに、情報を確かめる場所と時間を決め、アプリの再生の設定を見直し、生々しい動画は開かない・広めないと決めておくことです。どれも数分でできます。
「何かあったら確かめる場所」を先に決める
大きな出来事が起きたら、まず自治体や公的機関の発表、文字中心のニュースで確かめると決めておきます。研究5では、数字や事実のデータを見ることは不調の低さと結びついていました。
目安 決めるのに3分
見る時間を1日に2回など、回数で区切る
研究者は、ニュースを断つのではなく、いつ・どう見るかを決めることを勧めています。「朝と夕方に10分ずつ」のように枠を決め、それ以外の時間におすすめを延々と見続けないようにします。
目安 1回10分を1日2回
アプリの再生の設定を、平時に一度だけ見ておく
よく使うSNSや動画アプリの設定画面に、動画の自動再生や、刺激の強い内容の表示に関する項目があるかを確かめます。項目の名前や場所はアプリや時期によって違うので、公式のヘルプで確かめてください。
目安 アプリ1つにつき5分
生々しい動画は開かず、広めない
流れてきても再生せずに先へ進み、共有もしません。研究者は、それが自分だけでなく、被害にあった人や周りの人への思いやりにもなると書いています。過去につらい出来事を経験した人は、特に意識しておくと安心です。
目安 その場で1回
災害のときに流れてくるAIの偽画像への備えは地震や大雨のときのAIの偽画像の記事、おすすめに出てくる投稿の偏りはSNSのおすすめと見た目の比較の記事でも整理しています。
05よくある質問
事件の動画を見ないようにするのは、現実から目をそらすこと?
そうではありません。研究者は、ニュースを断つのではなく、いつ・どう見るかを決めることを勧めています。何が起きたかは文章や公的機関の発表で確かめられ、生々しい映像を繰り返し見なくても状況は知ることができます。
一度見ただけでも、心に影響はある?
一度でも衝撃を受けることはありえますが、多くの研究が示しているのは、見た時間や回数が多いほどストレスの症状が強いという関連です。一度見てしまったら、それ以上繰り返し見ないことが現実的な線引きになります。
AIで作られた偽の映像でも、ショックを受ける?
まだよくわかっていません。PNASの論文の著者も、AIで作られた偽の映像への反応は今後の研究課題として挙げています。本物か偽物かにかかわらず、生々しい映像は開かず、確かめたいことは公的機関の発表で確かめるのが無難です。
見てしまって、場面が頭から離れない。どこに相談できる?
眠れない、落ち込みが続くなど、つらい状態が2週間以上続くときや日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの公的な相談窓口に相談できます。
出典
- Holman, E. A., Garfin, D. R., & Silver, R. C. (2014). Media's role in broadcasting acute stress following the Boston Marathon bombings. Proceedings of the National Academy of Sciences, 111(1), 93–98. https://doi.org/10.1073/pnas.1316265110
- Thompson, R. R., Jones, N. M., Holman, E. A., & Silver, R. C. (2019). Media exposure to mass violence events can fuel a cycle of distress. Science Advances, 5(4), eaav3502. https://doi.org/10.1126/sciadv.aav3502
- Holman, E. A., Garfin, D. R., & Silver, R. C. (2024). It matters what you see: Graphic media images of war and terror may amplify distress. Proceedings of the National Academy of Sciences, 121(29), e2318465121. https://doi.org/10.1073/pnas.2318465121
- Garfin, D. R., Holman, E. A., Fischhoff, B., Wong-Parodi, G., & Silver, R. C. (2022). Media exposure, risk perceptions, and fear: Americans' behavioral responses to the Ebola public health crisis. International Journal of Disaster Risk Reduction, 77, 103059. https://doi.org/10.1016/j.ijdrr.2022.103059
- Luo, Y., He, X., Wang, S., Li, J., & Zhang, Y. (2021). Media exposure predicts acute stress and probable acute stress disorder during the early COVID-19 outbreak in China. PeerJ, 9, e11407. https://doi.org/10.7717/peerj.11407
- 厚生労働省「電話相談窓口(まもろうよ こころ)」 https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/soudan/tel/


