自分の声や歌をAIの素材に提供する前に、何を確かめる?研究では、約4分の録音から作ったAIの声を、聞き手は本物の声と区別できなかった

「声のデータを提供すると謝礼がもらえる」「あなたの歌声でAIの声を作れる」。そんな誘いや機能を見かけて、迷っている人は少なくありません。研究では、数分の録音から作ったAIの声を、聞き手はほとんど本人の声と区別できませんでした。だから大事なのは、録音を渡す前に「何に・いつまで・どうやめられるか」を確かめて、記録に残しておくことです。
3行でわかる
- 英国の研究では、約4分の録音から作った声のクローン(本人の声をまねたAIの声)を、聞き手は本物の声と区別できませんでした。
- 声を1つずつ聞いて本物か偽物かを答える課題で、偽の声を見抜けたのは73%で、事前に偽の声の例を聞いても成績はわずかしか上がりませんでした。作られたあとに「聞けばわかる」とは言いにくいということです。
- 提供する前に、用途・範囲・期間・取り下げ方・渡る相手の5点を書き出し、規約を日付つきで保存し、あいまいな点は文面で質問します。
01 結論から言うと声を提供する前に、何を確かめればいい?
録音を渡す前に、①何に使うか ②その用途だけか ③いつまで使うか ④やめたいときどうなるか ⑤誰の手に渡るか、の5点を規約や契約で確かめます。書いていない点は、提供する前に文面で質問します。
声のクローンは、本人の録音をもとに、その人らしい声で新しい言葉を話させる技術です。研究では、数分の録音から作った声でも、聞き手は本物とほとんど区別できませんでした[1][2]。
つまり、いったん作られた声が思わぬ使われ方をしたとき、聞いた人が「本人ではない」と気づくことは期待しにくいのです。声を出すこと自体が悪いわけではありません。気をつけたいのは、条件を知らないまま渡してしまうことです。
この記事は、自分から声を提供する前の確かめ方です。SNSに載せた声や写真が学習に使われる不安は自分の写真や声がAIの学習に使われるのが不安に、作品が学習に使われたかを知る方法は自分の作品がAIの学習に使われたか知る方法はある?にまとめています。
02 研究とデータでわかっていることAIで作った声は、本物と聞き分けられる?
聞き分けるのは難しい、というのが3つの研究で共通した結果です。約4分の録音から作ったクローンは本物の声と同じくらい「人間の声」と判断され、聞き分ける力はほぼゼロでした。
Lavanら(2025, PLOS ONE)[1]
40人の話し手それぞれについて、約4分の録音から声のクローンを作り、本物の声と一緒に聞かせました。クローンが「人間の声」と判断された割合は58%で、本物の声の62%と統計的な差はありませんでした。
本物とクローンを聞き分ける力を表す指標はほぼゼロで、聞き手はクローンを本物から区別できていませんでした。クローンの声は、本物の声より「支配的に聞こえる」と評価されました。
対象: 英国に住む英語を母語とする成人50人、話し手は音声データベースの40人 / 限界: 1文だけの短い録音で、雑音や息つぎを取り除いた「きれいな」音声どうしを比べています。
Maiら(2023, PLOS ONE)[2]
声を1つずつ聞かせて本物か偽物かを答えてもらうと、偽の声を正しく見抜けたのは73%でした(本物と偽物を2つ並べて聞かせ、偽物を選んでもらう課題では約86%)。英語と中国語で成績に差はありませんでした。
事前に偽の声の例を5つ聞いた人の成績は、平均3.84ポイント上がっただけでした。何度も聞き直しても、時間をかけても、成績はほとんど変わりませんでした。
対象: 英語または中国語が堪能な成人529人、話し手は各言語1人 / 限界: 最新の商用サービスではなく、公開されている音声合成モデルで作った声です。
Barringtonら(2025, Scientific Reports)[3]
220人の話し手について、それぞれ最初の2つの録音だけを材料に、市販の音声クローンのサービスで声を作りました。604人の聞き手に聞かせたところ、「同じ人の声か」「本物かAIか」のどちらを尋ねても、AIの声を安定して見分けることはできませんでした。
研究者は、この結果は声に注意を集中して答えた場合のもので、注意が向いていない実際の場面では、さらにだまされやすくなるだろうと述べています。
対象: 米国在住の英語を母語とする話し手220人と、聞き手604人 / 限界: 聞き手は声に集中して答える課題で、録音は平均5秒ほどの短いものでした。
3つの研究から言えるのは、少ない録音でも本人らしい声が作れること、そして作られた声を耳で見分けるのは難しいことです。提供した声の扱いを、あとから聞いた人の判断に任せることはできません。だから、提供する前の条件の確認が大切になります。
03 まだわかっていないこと日本語の声や、知っている人の声でも同じ?
まだわかっていません。今回の研究は英語と中国語の聞き手で、話し手は音声データベースや募集で集めた人でした。日本語の声や、家族や友人の声で同じ結果になるかは確かめられていません。
- 日本語の声のクローンを、日本語を話す人がどのくらい聞き分けられるかを調べた査読つきの研究は、今回の調査では見つかりませんでした。
- 3つの研究の録音は、どれも数秒から1文ほどの短いものです。長い会話や歌声で同じ結果になるかはわかっていません。
- 提供した声が、実際にどのくらいの頻度で約束と違う使われ方をしているかを調べた研究も見つかりませんでした。
- 自分の声をまねたAIの声が使われたときに法律上どう扱われるかは、個別の事情による判断になります。この記事では扱いません。
04 今日からできること録音を渡す前に、できることは?
提供の条件を5点で書き出し、規約や同意画面を日付つきで保存し、あいまいな点は文面で質問します。提供したあとのために、渡した録音と相手の記録も1か所にまとめます。
確かめたい5点を表にすると、次のとおりです。規約にこの5点が書かれていないときは、提供する前に質問する目安になります。
| 確かめる点 | 規約や契約で探す内容 |
|---|---|
| ①何に使うか | その作品の読み上げだけか、AIの声づくりや学習にも使うか |
| ②どこまで使うか | 作った声を、ほかの作品や広告、ほかの利用者にも使わせるか |
| ③いつまで使うか | 期間の定めがあるか、「無期限」になっていないか |
| ④やめたいとき | 取り下げの方法と、録音だけでなく作られた声も消すのか |
| ⑤誰の手に渡るか | ほかの会社に渡すことがあるか、サービスが終わったら録音はどうなるか |
5点をメモに書き出す
規約や募集の文面を読みながら、上の表の5点を自分の言葉でメモします。見つからない点には「書いていない」と書きます。
目安 15分
規約と同意画面を、日付つきで保存する
同意する前に、規約の全文と同意画面をスクリーンショットかPDFで保存します。あとで条件を確かめ直すときの手がかりになります。
目安 5分
あいまいな点は、提供する前に文面で質問する
「書いていない」点は、問い合わせ窓口にメールなど記録が残る形で質問します。答えが得られないときは、提供を見送ることも選べます。
目安 10分(返事を待つ時間は別)
提供した記録を1か所にまとめる
提供した日、相手の名前、渡した録音、保存した規約を1つのフォルダに入れます。取り下げを頼むときや、思わぬ使われ方に気づいたときの材料になります。
目安 10分
身近な人に「自分の声のAIがありうる」と伝えておく
声のクローンは聞き分けにくいので、家族や仕事相手に、お金や大事な頼みは声だけで判断しないでほしいと一言伝えておきます。
目安 1回5分
AIの声をつかった電話の詐欺にあった家族とどう向き合うかは、AIの声の詐欺にあった親を、責めてしまったにまとめています。
05よくある質問
少しの録音だけで、本人そっくりのAIの声は作れるの?
研究では、少ない録音から本人らしい声が作られています。英国の研究では、約4分の録音から作ったクローンを、聞き手は本物の声と区別できませんでした。米国の研究では、話し手ごとに最初の2つの録音だけから作った声でも、聞き手は安定して見分けられませんでした。ただし、どちらも英語の短い録音での結果です。
一度提供した声は、あとから取り下げられる?
提供先の規約や契約によって決まります。確かめたいのは、取り下げの方法があるかと、録音だけでなく、録音から作られた声も消すのかという点です。規約に書いていないときは、提供する前に文面で質問し、答えを保存しておくと安心です。
偽の声の例を聞いて練習すれば、見抜けるようになる?
練習の効果は小さいことがわかっています。英語と中国語で調べた研究では、事前に偽の声の例を5つ聞いた人の成績は、平均3.84ポイント上がっただけでした。何度も聞き直したり時間をかけたりしても、成績はほとんど変わりませんでした。耳だけに頼らず、声だけで大事なことを決めない約束をしておくほうが確かです。
声を提供するのは、やめたほうがいい?
一律にやめる必要はありません。研究者は、病気などで話せなくなった人が自分に近い声で話すためにクローンが使われるなど、役に立つ使い方もあると紹介しています。大切なのは、条件を知ったうえで選ぶことです。用途・範囲・期間・取り下げ方・渡る相手の5点に納得できたときに提供すれば、あとで困ることを減らせます。
出典
- Lavan, N., Irvine, M., Rosi, V., & McGettigan, C. (2025). Voice clones sound realistic but not (yet) hyperrealistic. PLOS ONE, 20(9), e0332692. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0332692
- Mai, K. T., Bray, S., Davies, T., & Griffin, L. D. (2023). Warning: Humans cannot reliably detect speech deepfakes. PLOS ONE, 18(8), e0285333. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0285333
- Barrington, S., Cooper, E. A., & Farid, H. (2025). People are poorly equipped to detect AI-powered voice clones. Scientific Reports, 15, 11004. https://doi.org/10.1038/s41598-025-94170-3


