AIの影響で転職したら、給料も任される仕事も下がった。落差がつらい。オーストラリアの約1万8,000人の21年分の調査では、同じ人でも能力を生かせないと感じる年は心の健康の点数が低めだった

AIの影響で前の仕事を離れ、ようやく次の仕事が決まった。けれど給料は下がり、任される仕事も前より軽い。「自分はこんなものではないはず」と悔しくなる日もある。その落差がつらいのは、自然な反応です。研究では、能力を生かせないと感じることが心の負担と結びついていて、同じ人でも年によって変わっていました。
3行でわかる
- オーストラリアの約1万8,000人の21年分の調査では、同じ人でも「能力を生かせていない」と感じる年は、心の健康の点数が少し低かった。
- ドイツの453人の研究では、能力に見合わない仕事だと感じる人ほど職場の状況への怒りが強く、それが仕事への満足度の低下とつながっていた。
- 何が下がったのかを分けて書き出し、話せる人を持ち、次を探すなら始める前に「大切な価値」を15分書く。
01 結論から言うと前より下の仕事に就いたつらさは、気のせい?
気のせいではありません。能力を生かせない仕事に就いている人は、心の健康の点数が低い傾向があり、研究者は失業と同じように働く人の負担になると考えています。
仕事は、お金だけでなく、腕を使う場や、認められる感覚もくれます。再就職で給料や任される仕事が下がると、その一部が欠けた状態になります。オーストラリアの研究者は、こうした「見合わない仕事」は失業と似た形で心の負担になると説明しています[1]。
一方で、同じ人を何年も追った分析では、能力を生かせると感じる年のほうが点数は高めでした。つまり、つらさは今の働き方との組み合わせで起きていて、あなたの価値が下がったことを示すものではありません。仕事を失った直後の動き方はAIの影響で仕事を失った直後の記事で、失った「時間・人・役割」を補う考え方は仕事を失ったあとの立て直しの記事で整理しています。
02 研究とデータでわかっていること能力に見合わない仕事は、心にどう響く?
心の健康の点数が少し下がり、職場への怒りを通して満足度が下がる傾向がありました。周りの支えを感じている人では、満足度への悪い影響が見られなかった研究もあります。
Churchillら(2025)[1]
「今の仕事で自分の能力を多く使っている」に7段階で真ん中以下と答えた人を「能力を生かせていない」として調べると、心の健康の点数(0〜100点)が低めでした。同じ人の中で比べても、生かせていない年は生かせている年より、女性で1.1点、男性で1.6点低くなっていました。もっと長く働きたいのに働けない人も、点数が低めでした。
対象: オーストラリアの25〜64歳の18,285人、2002〜2022年の調査 / 限界: 差は小さく、本人の感じ方を尋ねた調査です。AIが理由の転職かどうかは区別していません。
Debusら(2023)[2]
自分は今の仕事には能力が高すぎると感じる人ほど、職場の状況への怒りが強めでした。その怒りが「仕事が自分に合っている」感覚の低下を通して、仕事ぶりと満足度の低下につながっていました。期間の決まった契約の人や、同じ仕事が長い人では、能力が高すぎると感じるほど、仕事の進め方を自分で整える行動が少なくなっていました。
対象: ドイツの働く人453人、1か月おきに3回の調査 / 限界: すべて本人の回答で、期間は2か月と短めです。
Kirazci・Buyukgoze-Kavas(2024)[3]
能力や希望に見合わない仕事に就いていると感じる人ほど、仕事への満足度が低めでした。ただし、家族や友人などからの支えを強く感じている人では、この結びつきがはっきりしませんでした。
対象: トルコの働く人459人(平均36歳) / 限界: 1回だけの調査で、どちらが原因かはわかりません。
Pfrombeckら(2023)[4]
仕事を失った人に、自分にとって大切な価値を2〜3個選んで、なぜ大切かを10〜15分書いてもらう実験です。書いた組は、4週間以内に仕事が見つかった割合が10.9%で、書かなかった組の3.4%より高くなっていました。50歳以上でも効果は同じくらいでした。
対象: スイスの職業安定機関に登録した532人と、別のオンライン実験の334人 / 限界: 8週間後には差がはっきりしなくなっていました。再就職したあとの人ではなく、失業中か退職が決まった人の研究です。
03 まだわかっていないことAIが理由の転職でも、同じことが言える?
まだわかっていません。今回の研究は理由を問わず見合わない仕事に就いた人を調べたもので、AIが理由の転職や、日本の働く人に限った研究は見つかりませんでした。
- AIの影響で仕事を変えた人が、そのあとどう感じているかを追った研究は、今回の調べでは見つかりませんでした。
- 再就職したあとの落差のつらさを和らげる方法を、試験で確かめた研究はほとんどありません。
- オーストラリアの調査の差は100点満点で1〜2点と小さく、人によってどれくらい違うかはわかりません。
- 大切な価値を書く実験は、仕事を探している人で効果が出たもので、今の仕事でのつらさが軽くなるかは調べていません。
04 今日からできること落差のつらさから、どう立て直す?
何が下がったのかを分けて書き出し、悔しさを話せる相手を持ちます。今の職場で力を生かせる場を相談し、次を探すなら始める前に大切な価値を15分書きます。
下がったものと残ったものを分けて書く
「給料」「任される仕事」「働ける時間」「職場の人」の4つに分けて、前と今を1行ずつ書きます。研究でも、能力が生かせないことと、働ける時間が希望より短いことは、別々に心の負担と結びついていました。全部が下がったわけではないと見えるだけでも、次の一手が選びやすくなります。
目安 10分
悔しさを職場の外で話す相手を1人決める
家族や友人、前の職場の仲間などに、落差のつらさをそのまま話します。支えを感じている人では、見合わない仕事と満足度の低さの結びつきが見られなかった研究があります。職場の状況への怒りが満足度の低下につながっていた研究もあるため、一人で抱え込まないのは一つの手です(話すことで怒りが減るかは、この研究では調べていません)。
目安 週1回、15分
今の職場で、使いたい力を1つだけ伝える
前の仕事で身につけた力のうち、今の職場でも役に立ちそうなものを1つ選び、上司に「この作業も担当できます」と伝えます。オーストラリアの研究者も、働く人が力を出し切れるよう雇う側が支えることを求めています。
目安 準備10分・相談1回
次を探すなら、始める前に大切な価値を書く
家族や友人との関係、自然や環境など、自分にとって大切な価値を2〜3個選び、なぜ大切かを書きます。仕事を失った人の実験で、4週間以内に仕事が見つかる割合が高くなっていた方法です。
目安 10〜15分、1回
望まない形で仕事を離れたときの気持ちの整理は望まない退職のあとの記事でも扱っています。
今の職場の働き方や待遇の相談: 各都道府県の労働局にある総合労働相談コーナー(無料)
法律の相談先がわからない: 法テラス(0570-078374)
05よくある質問
前より下の仕事に就いたことを、ずっと引きずってしまうのは自分が弱いから?
弱さとは言えません。オーストラリアの約1万8,000人の調査では、能力を生かせないと感じることは、心の健康の点数の低さと結びついていました。研究者は、失業と同じように働く人の負担になると考えています。つらさは自然な反応として扱い、何が下がったのかを分けて整理するところから始められます。
能力を生かせない仕事でも、続けていれば慣れる?
慣れるかどうかを直接確かめた研究は見当たりません。オーストラリアの調査では、同じ人でも能力を生かせていると感じる年のほうが心の健康の点数が高く、今の状態が一生続くと決まっているわけではありません。ただし点数の差は100点満点で1〜2点ほどと小さく、人によって違います。
もう一度転職を目指すなら、何から始めればいい?
スイスの職業安定機関で登録した532人の実験では、自分にとって大切な価値を2〜3個選び、なぜ大切かを10〜15分書いてもらいました。書いた組は、4週間以内に仕事が見つかった割合が10.9%で、書かなかった組の3.4%より高くなっていました。ただし8週間後には差がはっきりしなくなっていて、この人たちは失業中か退職が決まった人でした。
AIのせいで仕事を変えた人に限った研究はある?
今回の調べでは見つかりませんでした。この記事の研究は、理由を問わず、能力や希望に見合わない仕事に就いている人を調べたものです。AIが理由の転職にも同じことが当てはまるかは、まだわかっていません。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
出典
- Churchill, B., Ervin, J., Ruppanner, L., Taouk, Y., & King, T. L. (2025). Underemployment and mental health amongst working-age Australians: a gendered analysis using the HILDA survey. Health Promotion International, 40(2), daaf030. https://doi.org/10.1093/heapro/daaf030
- Debus, M. E., Körner, B., Wang, M., & Kleinmann, M. (2023). Reacting to Perceived Overqualification: Uniting Strain-Based and Self-Regulatory Adjustment Reactions and the Moderating Role of Formal Work Arrangements. Journal of Business and Psychology, 38(2), 411–435. https://doi.org/10.1007/s10869-022-09870-8
- Kirazci, F., & Buyukgoze-Kavas, A. (2024). Underemployment, Work Needs, and Job Satisfaction: Does Social Support Matter? Behavioral Sciences, 14(4), 335. https://doi.org/10.3390/bs14040335
- Pfrombeck, J., Galinsky, A. D., Nagy, N., North, M. S., Brockner, J., & Grote, G. (2023). Self-affirmation increases reemployment success for the unemployed. Proceedings of the National Academy of Sciences, 120(37), e2301532120. https://doi.org/10.1073/pnas.2301532120


