AIで仕事を失って再就職したのに、また奪われるのではと不安が消えない。研究では、失業の経験は不安への反応を強める面と弱める面の両方があり、AIの役割がはっきりした職場ほど仕事を工夫しやすかった

AIの影響で前の仕事を失い、ようやく次の職場が決まった。なのに、新しい職場でAIの話が出るたびに「また同じことになるのでは」と胸がざわつく。そう感じるのは、心が弱いからではありません。研究では、失業の経験が雇用の不安への反応を強める場面と、むしろ弱める場面の両方が見られました。結論は、不安を「この職場の不安」と「職業そのものの不安」に分け、新しい職場でAIと自分の役割の分け方を確かめることから立て直すことです。
3行でわかる
- ドイツとアメリカの4つの研究(計1,623人)では、失業を経験した人は、雇用の不安で仕事の満足が下がりやすい結果と、不安が仕事ぶりや眠りに響きにくい結果の両方が出ていました。
- スウェーデンの1万4,827人を2010〜2020年の調査で追った研究では、雇用の不安が2年後の抑うつ症状と結びついていました。35歳以下では、この向きの結びつきがとくに目立ちました。
- 中国の398人の研究では、職場でのAIの役割がはっきりしている人ほど、AIと組む仕事が自分で仕事を工夫することにつながり、その先の働き続けやすさとの結びつきが約2倍でした。
01 結論から言うとまた仕事をAIに奪われる不安は、ずっと続く?
ずっと続くとは限りません。失業の経験は不安への反応を強めることも弱めることもあり、研究の結果は分かれています。不安を種類に分け、新しい職場でのAIと自分の役割を確かめると、手を打てる部分が見えてきます。
一度、仕事を失う経験をすると、似た気配に敏感になるのは自然なことです。研究者はこれを「ストレスに敏感になる」見方と、「経験したぶん、強くなる」見方の2つで調べてきました。後で紹介するとおり、どちらか一方だけが正しいという結果にはなっていません。
大事なのは、不安の中身を分けることです。「この職場で、また仕事を失うかもしれない」という不安と、「自分の職業そのものがAIで変わってしまうかもしれない」という不安は、研究でも別のものとして測られています。前者は職場で確かめられることが多く、後者は少し長い目で備えることになります。
なお、職業ごとの研究では、多くの仕事は「なくなる」より「中身が変わる」と見られています(AIに仕事を奪われるのは本当?)。転職して給料や任される仕事が下がったつらさについては、AIの影響で転職したら、給料も任される仕事も下がったで整理しています。
02 研究とデータでわかっていること失業を経験すると、雇用の不安に弱くなる?
一概には言えません。4つの研究では、仕事の満足は下がりやすい一方、仕事ぶりや眠りには響きにくい結果も出ました。雇用の不安は2年後の抑うつ症状と結びつき、AIの役割がはっきりした職場ほど、仕事を工夫しやすい傾向がありました。
Debusら / Journal of Business and Psychology(2025)[1]
ドイツとアメリカの4つの調査で、過去に失業した人とそうでない人の、雇用の不安への反応を比べました。ドイツの205人の調査では、失業を経験した人のほうが、雇用の不安があると仕事の満足が大きく下がっていました(敏感になる向き)。一方、アメリカの2つの調査では、過去5年に失業を経験した人ほど、雇用の不安がうっかりミスや仕事ぶり、眠りの乱れと結びつきにくくなっていました(強くなる向き)。ドイツの別の調査では、両方の向きが同時に見られました。
対象: ドイツ(205人・453人)とアメリカ(390人・575人)の働く人 / 限界: 調査の時期や国が研究ごとに違い、どちらの向きが出るかを分けた条件はまだ確かめられていない。
Lindbergら / International Archives of Occupational and Environmental Health(2026)[2]
スウェーデンの働く人1万4,827人の、2010年から2020年まで2年ごとの調査を分析しました。雇用の不安が高い人は、2年後に抑うつ症状が高めでした。35歳以下では、不安から2年後の症状への結びつきが中くらいの強さで、症状から不安への逆向きの結びつきははっきりしませんでした。36歳以上では、両方の向きの結びつきがありました。雇用の不安は2年たってもある程度残りやすい一方、変わる余地もありました。
対象: スウェーデンで、フルタイムの30%以上の時間働く人(自営業・農業を除く) / 限界: 本人の回答による調査で、生活の出来事などほかの要因を除ききれていない。
Okunevičiūtė Neverauskienė・Bagdžiūnienė / Frontiers in Sociology(2026)[3]
リトアニアで仕事にITを使う754人を2025年に調べました。この研究は、「今の職場での先行きの不安」と「職業そのものが技術で大きく変わる不安」を分けて測っています。技術による負担の多さは、職業そのものの不安とより強く結びつき(0.442)、職場での不安とも結びついていました(0.334)。辞めたい気持ちと結びついていたのは、職場での不安を通した部分でした。
対象: リトアニアの官民の組織で働く19〜64歳 / 限界: 一時点の調査で、因果は言い切れない。働く人全体を代表する標本ではない。
Jiangら / Behavioral Sciences(2026)[4]
仕事でAIを使う中国の398人に、約3週間おきに3回答えてもらいました。AIと組む仕事が多い人ほど、自分から仕事のやり方や学び方を工夫しており、それが働き続けやすさの実感と結びついていました。「なぜ、どの作業にAIを使うのか」がはっきりしている人ほど、この結びつきは強く、はっきりしている度合いが平均より高い人では、低い人の約2倍でした。
対象: 中国のネット調査に登録した会社員(8割近くが現場の担当者) / 限界: 本人の回答だけによる調査で、因果は言い切れない。役割のはっきりさの効果は控えめ。
03 まだわかっていないことAIで失業した人の不安を調べた研究はある?
ほとんどありません。紹介した研究の失業はAIが理由とは限らず、AIで仕事を失った人の再就職後の不安を追った研究は見つかりませんでした。どんな条件で不安に強くなるのかも、まだ分かれています。
- AIの導入がきっかけで仕事を失った人に絞って、再就職後の不安や心の健康を追った研究は見つかりませんでした。
- 失業の経験が不安への反応を強めるのか弱めるのかは研究によって分かれ、その違いが国の制度、失業の長さ、年齢などのどれによるのかはわかっていません。
- 新しい職場でAIの役割を説明すると、再就職した人の不安が実際に減るのかを試した研究はまだありません。
- 研究はドイツ・アメリカ・スウェーデン・リトアニア・中国が中心で、日本の働く人に同じように当てはまるかは確かめられていません。
04 今日からできることまた奪われる不安を和らげるには?
不安を「この職場」と「職業そのもの」に分けて書き出し、新しい職場でAIが担う作業と自分の担当を確かめます。そのうえで、週に1つ仕事の工夫を試します。眠りや気分の不調が続くときは相談します。
不安を2つに分けて書き出す
紙を2つに分け、「この職場で仕事を失うかもしれない」理由と、「自分の職業がAIで変わるかもしれない」理由をそれぞれ書きます。研究でも2つは別々に測られていて、前者は職場で確かめられること、後者は時間をかけて備えることが多いと見えてきます。
目安 10分
新しい職場で、AIと自分の担当の分け方を聞く
上司との面談などで「この職場では、どの作業にAIを使っているか」「AIの答えを確かめるのは誰か」「自分に期待されているのは何か」を聞きます。研究では、AIの役割がはっきりしている人ほど、仕事を自分で工夫しやすい傾向がありました。
目安 面談15分
週に1つ、仕事の工夫を試す
新しく覚えたいことを1つ決める、相談できる同僚を1人増やす、AIに任せる下ごしらえと自分が判断する部分を分けてみる、などです。工夫した内容を1行で残しておくと、自分の働き方が少しずつ見えてきます。
目安 週1回、記録は1分
前回、助けになったことを書き残す
前の仕事を失ったとき、役に立った人・窓口・手続き・気持ちが楽になったことを書き出します。不安を消すためではなく、もしものときの手順がすでに手元にあると確かめるためのメモです。
目安 20分を1回
眠りや気分を、週に1回ふり返る
研究では、雇用の不安は2年後の抑うつ症状と結びついていました。寝つき・目覚め・気分を「よい・ふつう・悪い」で週に1回つけ、悪い週が続いたら一人で抱えずに相談します。
目安 週1回1分
新しい担当になじめないつらさについては、AIの導入で担当が変わり、新しい仕事になじめないも参考になります。
05よくある質問
一度AIで仕事を失うと、不安はずっと消えない?
そうとは限りません。ドイツとアメリカの研究では、失業を経験した人が雇用の不安に敏感になる結果と、むしろ影響を受けにくくなる結果の両方がありました。スウェーデンの追跡でも、雇用の不安は2年後にある程度残る一方で、変わる余地もありました。
不安をなくすには、AIの勉強をたくさんすべき?
勉強の量を増やすことが不安を減らすと確かめた研究は、見つかりませんでした。研究で手がかりになっていたのは、職場でのAIの役割がはっきりしていることと、自分で仕事を工夫することです。まずは今の職場でAIが何を担当しているかを確かめ、週に1つの小さな工夫から始めてください。
新しい職場でAIの話が出るたびに動揺するのは、気にしすぎ?
気にしすぎと決めつける必要はありません。仕事を失った経験のあとに、似た気配に敏感になるのは自然なことです。不安を「この職場」と「職業そのもの」に分けて書き出すと、確かめられることと、時間をかけて備えることが分かれて見えてきます。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
出典
- Debus ME, Probst TM, Bazzoli A, Lee HJ (2025). The Long Reach of Unemployment: Sensitizing or Inoculating Employee Reactions to Job Insecurity? Journal of Business and Psychology, 41(5), 983–1012. https://doi.org/10.1007/s10869-025-10052-5
- Lindberg Y, Rajaleid K, Kecklund G, Peristera P, Nyberg A (2026). Reciprocal longitudinal associations between job insecurity and depressive symptoms in young working women: the SLOSH study 2010–2020. International Archives of Occupational and Environmental Health, 99, 41. https://doi.org/10.1007/s00420-026-02230-6
- Okunevičiūtė Neverauskienė L, Bagdžiūnienė D (2026). Techno-overload and employee outcomes: relationships with job insecurity, turnover intention, and occupation insecurity among Lithuanian employees. Frontiers in Sociology, 11, 1782891. https://doi.org/10.3389/fsoc.2026.1782891
- Jiang H, Zhang Y, Yan S (2026). Employee-AI Collaboration and Career Sustainability: The Role of Job Crafting and AI Job Role Clarity. Behavioral Sciences, 16(8), 1451. https://doi.org/10.3390/bs16081451


