AIで仕事の依頼が減ってから、趣味の創作まで楽しめなくなった。研究では、報酬を期待する作業は自分からやりたい気持ちを下げやすく、売らない作品の時間を分けることが手がかりになる

AIが広がってから、イラストや文章の依頼が減った。仕事のことを考えるのがつらいだけでなく、前は楽しかった趣味の創作まで、手が止まるようになった。そう感じるのは、あなたの才能や根気の問題ではありません。報酬と結びついた作業は、自分からやりたい気持ちを下げやすいことが、多くの実験でわかっています。作ることを自分の手に戻す手がかりは、仕事と切り離した、小さな創作の時間です。
3行でわかる
- 128の実験をまとめた研究では、報酬を期待してする作業は、あとで自分から取り組む気持ちを下げていました。好きな創作が仕事になると、楽しさが報酬の陰に隠れやすいと考えられます。
- 一方で、うまくできたことを伝える前向きな言葉は、自分からやりたい気持ちを高めていました。英国の23,660人の調査では、週1回より多く創作や芸術の活動をする人は、まったくしない人より、心の負担が少なく、生活の満足度が高めでした。
- 今日からできるのは、売る予定のない作品を作る時間を分けること、短い時間から始めること、「できた」を自分で記録することです。
01 結論から言うと依頼が減ったら、趣味の創作まで楽しめないのはなぜ?
創作が報酬と強く結びつくと、作ること自体の楽しさが感じにくくなるためと考えられます。128の実験のまとめでは、報酬を期待してする作業が、あとで自分から取り組む気持ちを下げていました。依頼が減ると、その結びつきが痛みに変わることがあります。
仕事で描いたり書いたりしていると、作るたびに「これは売れるか」「依頼につながるか」を考えるようになります。それ自体は、仕事として自然なことです。
ただ、AIで依頼が減ると、作ることと「仕事が減った」という痛みが結びつきます。趣味の時間に手を動かしても、同じ痛みを思い出してしまう人は少なくありません。
楽しめなくなったのは、作る力を失ったからではありません。作ることの意味が、一時的に仕事の側に寄りすぎている状態だと考えると、立て直す道筋が見えてきます。
02 研究とデータでわかっていること報酬のための創作は、楽しさを減らす?
報酬を期待して取り組んだ作業は、報酬がなくなったあとに自分から取り組む気持ちを下げていました。うまくできたことを伝える前向きな言葉は、逆にその気持ちを高めていました。芸術活動を週1回より多くする人は、心の負担が少なめでした。
Deciら(1999)[1]
報酬が「自分からやりたい気持ち」にどう影響するかを調べた128の実験をまとめました。取り組むだけでもらえる報酬、やり終えるともらえる報酬、出来ばえに応じた報酬は、どれも、報酬がない自由な時間に自分からその作業をする行動を下げていました(d=-0.40、-0.36、-0.28)。
一方、うまくできたことを伝える前向きな言葉は、自分から取り組む行動(d=0.33)と、興味の自己評価(d=0.31)の両方を高めていました。
対象: 子どもや大学生が参加した実験 / 限界: 仕事として長く続けてきた創作を調べたものではありません。報酬の害は、大学生より子どもで大きい傾向でした。
Lepperら(1999)[2]
報酬とやる気の関係について、同じ時期に出た3つのまとめを比べた論評です。3つのまとめは、全体としての結論が大きく食い違っていました。著者らは、Deciらのまとめのほうが、反対の結論を出した別のまとめより、研究の実態を正確にとらえていると評価しています。
対象: 3つのメタ分析(研究のまとめ) / 限界: 研究者のあいだで、報酬の影響の大きさや条件については議論が続いています。
Wangら(2020)[3]
英国の全国調査に2回答えた大人23,660人を分析しました。同じ人の中での変化を比べる方法で、子どもの頃の芸術体験や性格など、時間で変わらない要因の影響を除いています。絵・写真・手芸・楽器・読書などの芸術活動を週1回より多くする人は、まったくしない人より、心の負担が少なく、生活の満足度が高くなっていました。
心の負担の差は0〜36点の尺度で0.29点、生活の満足度の差は0.09点と、どちらも小さめでした。
対象: 英国の16歳以上(平均47歳)、2010〜2012年と2013〜2015年の調査 / 限界: 観察研究で、芸術活動が心の健康をよくしたとは言い切れません。仕事を失った人やAIの影響を調べたものではありません。
研究を、依頼が減って創作を楽しめなくなった場面に当てはめると、次のように整理できます。
| 起きていること | 研究でわかったこと |
|---|---|
| 作るたびに「売れるか」を考える | 報酬を期待する作業は、自分から取り組む気持ちを下げていた[1] |
| うまく描けても喜べない | できたことを伝える前向きな言葉は、やる気を高めていた[1] |
| 趣味の時間が減った | 週1回より多い芸術活動は、心の負担の少なさと結びついていた[3] |
03 まだわかっていないことAIで仕事が減った作り手の楽しさは、また戻る?
AIで依頼が減った作り手が、趣味の創作の楽しさをどう取り戻すかを直接調べた研究は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。紹介した研究は、報酬とやる気の実験と、芸術活動の調査から当てはめたものです。
- 報酬の研究は、子どもや大学生が参加した実験です。何年も仕事として創作をしてきた人に、同じことが起きるかはわかっていません。
- 報酬がやる気を下げる大きさについては、研究のまとめどうしで結論が食い違ったことがあり、議論が続いています。
- 芸術活動と心の健康の研究は英国の調査で、芸術活動が心の健康をよくしたのか、元気な人が芸術活動をしやすいのかは区別しきれていません。
04 今日からできること作る楽しさを取り戻すには、何から始める?
売る予定のない作品を作る時間を仕事と分け、短い時間から始め、「できた」ことを自分で記録します。どれもお金はかからず、今日から15分ほどで始められます。
「売らない・見せない」作品のための場所を分ける
仕事用とは別のノートやフォルダを1つ作り、そこで作るものは投稿も販売もしないと決めます。数字や反応を見ない作品があると、報酬や評価から離れて手を動かせます。
目安 準備5分
週に2回、15分だけ手を動かす
完成させることを目標にせず、落書きや短い文章、写真1枚でもかまいません。英国の調査では、週1回より多く芸術活動をする人は、まったくしない人より、心の負担が少なめでした。気が向かない日は、道具を出すだけで終えてもかまいません。
目安 1回15分、週2回
「できた」ことを1行で書き残す
「線を気持ちよく引けた」「好きな色を見つけた」のように、出来ばえではなく、うまくいったことを書きます。研究では、できたことを伝える前向きな言葉がやる気を高めていました。信頼できる友人に、評価ではなく感想をもらうのも1つの方法です。
目安 1回1分
仕事の側の立て直しは、依頼が減ったときに使える法律や相談先をまとめた「AIで翻訳やイラストの依頼が減った」で整理しています。練習を続ける意味が見えなくなったときは「AIがあるのに練習する意味があるのか」も参考になります。
05よくある質問
好きなことを仕事にすると、楽しめなくなるって本当?
そうなる場合があります。128の実験をまとめた研究では、報酬を期待してする作業は、報酬がない時間に自分から取り組む行動を下げていました。ただ、実験の参加者は子どもや大学生で、仕事として長く創作してきた人にどこまで当てはまるかはわかっていません。
依頼が減ったのに、趣味で描く時間をとっていいの?
とってかまいません。英国の23,660人の調査では、週1回より多く芸術活動をする人は、まったくしない人より、心の負担が少なく、生活の満足度が高めでした。差は小さく、芸術活動が心の健康をよくしたとまでは言い切れませんが、15分ほどの短い時間でも始められます。
SNSに作品を載せるのも、やめたほうがいい?
やめる必要はありません。ただ、反応の数を気にしながら作ると、報酬や評価と結びついた作り方に戻りやすいと考えられます。投稿する作品とは別に、誰にも見せない作品を作る場所を1つ持っておくと、作ること自体を楽しむ時間を確保できます。
楽しめないまま、もう描けなくなったらどうしよう。
今回調べた範囲では、AIで依頼が減った作り手が、創作の楽しさをどう取り戻すかを直接調べた研究は見つかりませんでした。一方で、うまくできたことを伝える前向きな言葉は、自分から取り組む気持ちを高めていました。小さな「できた」を書き残すところから始められます。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
出典
- Deci EL, Koestner R, Ryan RM (1999). A meta-analytic review of experiments examining the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation. Psychological Bulletin, 125(6), 627-668. https://doi.org/10.1037/0033-2909.125.6.627
- Lepper MR, Henderlong J, Gingras I (1999). Understanding the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation: Uses and abuses of meta-analysis: Comment on Deci, Koestner, and Ryan (1999). Psychological Bulletin, 125(6), 669-676. https://doi.org/10.1037/0033-2909.125.6.669
- Wang S, Mak HW, Fancourt D (2020). Arts, mental distress, mental health functioning & life satisfaction: fixed-effects analyses of a nationally-representative panel study. BMC Public Health, 20, 208. https://doi.org/10.1186/s12889-019-8109-y


