AIで作られた偽の論文は、どのくらい出回っている?研究では専門家もAIの偽の要旨の32%を本物と判断し、偽論文を量産する業者の論文は1.5年ごとに倍に増えていた

「論文で証明された」と書かれた投稿を見ても、その論文がAIで作られた偽物かもしれない。そう思うと、研究の話そのものが信じられなくなりますよね。研究では、AIは専門家も見誤るほど本物らしい論文の要旨を書けることがわかっています。一方で、AIが作った偽論文が実際に何本出回っているかを確かに数えた研究は、まだありません。わかっていることと、見分けるための手順を整理します。
3行でわかる
- AIは本物らしい偽の論文を短時間で作れます。2023年の研究では、ChatGPTが書いた医学論文の要旨の32%を、専門家が本物だと判断しました。
- 偽論文を量産する業者が関わった疑いのある論文は、1.5年ごとに倍に増えていました。ただし、そのうちAIで作られたものがどれだけかは、まだわかっていません。
- 研究の話を見たら、元の論文が実在するか、撤回されていないか、ほかの研究や公的機関も同じことを言っているかを確かめます。
01 結論から言うとAIで作られた偽の論文は、どのくらい出回っている?
AIで作られた偽の論文が何本出回っているかは、まだ確かな数字がありません。わかっているのは、AIが専門家も見誤る偽の論文を作れることと、偽論文を量産する業者の論文が急に増えていることです。
ここで言う「偽の論文」とは、実際には行っていない研究やデータを、本物の研究のように書いた論文のことです。AIを使って文章を整えただけの論文は、偽物ではありません。この2つを分けて考えることが、不安を必要以上に大きくしないための出発点です。
偽論文の問題は、AIが広まる前からありました。お金を受け取って偽の論文を量産する「論文工場(ペーパーミル)」と呼ばれる業者です。研究者は、AIがその量産をさらに簡単にするのではないかと心配しています。
02 研究とデータでわかっていることAIの偽論文は、専門家でも見抜けない?
専門家でも見抜けないことがあります。2023年の研究では、ChatGPTが書いた医学論文の要旨の32%を、専門家が本物だと判断しました。偽論文を量産する業者の論文は、1.5年ごとに倍に増えていました。
Gaoら(2023) [1]
有名な医学雑誌5誌の論文50本の題名と雑誌名をChatGPTに渡し、要旨(論文の短いまとめ)を書かせました。本物とAIの要旨を混ぜて研究チームの4人に見せると、AIの要旨のうち本物だと判断されたのは32%でした。逆に、本物の要旨の14%がAIのものと疑われました。読んだ人は、見分けるのが意外なほど難しかったと述べています。
対象: 2022年末に5誌に載った論文50本と、当時のChatGPT / 限界: 要旨だけの比較で、論文の全文を偽造した場合の見破りやすさはわかりません。
Májovskýら(2023) [2]
ChatGPTに指示を重ねて、実在しない脳神経外科の研究の論文を作らせました。できた論文は、序論・方法・結果・考察・表をそろえた1,992語で、引用は17件でした。特別な訓練を受けていない人が、約1時間で作れました。専門家が詳しく読むと、引用文献などに誤りが見つかりました。
対象: 1本の論文を作った実証の研究 / 限界: AIで作った偽論文が実際に雑誌に載っているかどうかを調べた研究ではありません。
Richardsonら(2025) [3]
世界の論文のデータを分析し、論文工場が関わった疑いのある論文の増え方を調べました。その数は1.5年ごとに倍になっていました。撤回される論文は3.3年ごと、論文全体は15.0年ごとに倍になっており、疑いのある論文が、正しい研究よりはるかに速く増えていました。
対象: 世界の学術論文のデータベース / 限界: 論文工場の論文には、AIを使わずに作られたものも含まれます。AIで作られた割合は示されていません。
Scancarら(2026) [4]
撤回された論文工場の論文2,202本の題名と要旨を機械に学ばせ、1999〜2024年のがん研究の論文264万7,471本を調べました。9.87%が、論文工場の論文と特徴が似ていると判定されました。判定された論文は2022年まで急に増えており、影響力の大きい雑誌にも含まれていました。
対象: PubMedに載ったがん研究の原著論文 / 限界: 「似ている」という判定で、1本1本が偽物だと確かめたわけではありません。
Kobakら(2025) [5]
2010〜2024年の生物医学の論文の要旨1,500万本以上で、AIがよく使う言葉が急に増えたかを調べました。2024年の要旨の少なくとも13.5%が、AIを通して書かれたと推定されました。分野・国・雑誌によっては、40%に達するところもありました。
対象: PubMedに載った要旨 / 限界: 文章にAIを使ったかどうかの推定で、中身が偽物かどうかを示すものではありません。
この5つの研究を合わせると、「AIで文章を整えた論文」はすでにかなり多く、「AIで中身ごと作った偽論文」は作ること自体は簡単、という姿が見えてきます。後者が実際にどれだけ雑誌に載っているかが、まだ空白のままです。
03 まだわかっていないことAIの偽論文の数は、なぜまだわからない?
AIで作られた文章を確実に見分ける方法が、まだないためです。今出ている数字は、AIの文章の使用や論文工場の疑いを推定したもので、AI製の偽論文の数そのものではありません。
- 実際に雑誌に載った論文のうち、AIで中身ごと作られた偽物が何本あるかは、まだ数えられていません。
- AIの文章を見分けるツールは、本物の文章をAIと誤って判定することもあり、偽論文探しにどこまで使えるかは研究が続いています。
- ここで紹介した研究は、主に英語の医学・生物学の論文です。日本語の論文や、ほかの分野でどうなっているかはわかりません。
- AIが論文工場の論文をどのくらい増やしたのかも、分けて測った研究はまだ見当たりません。
04 今日からできること「論文で証明された」という話は、どう確かめる?
「論文で証明された」という話を見たら、元の論文が実在するか、撤回されていないか、ほかの研究や公的機関も同じことを言っているかの3つを確かめます。1本の研究だけで判断しないことが、偽論文への一番の備えです。
元の論文が実在するかを開いて確かめる
投稿や記事に書かれた雑誌名・年・題名で検索し、論文そのもののページを開きます。題名だけで論文が見つからない、雑誌が実在しない場合は、話の根拠として使いません。
目安 3分
「撤回」の表示がないかを見る
論文のページや題名の近くに「Retracted(撤回)」「Expression of Concern(懸念の表明)」と書かれていないかを見ます。撤回された論文は、内容を根拠にできない論文です。
目安 1分
ほかの研究や公的機関も同じことを言っているかを見る
偽論文は1本で話題になりがちです。同じテーマの研究のまとめ(メタ分析)や、国や公的機関の資料も同じ結論か、1つ探します。1本だけなら「まだわからない話」として受け止めます。
目安 10分
AIが挙げた論文は、すべて自分で開く
AIに研究を聞いたときは、挙がった論文が実在するかを1件ずつ開いて確かめます。AIは実在しない文献を作ることがあります。
目安 1件につき2分
AIが挙げた文献が実在しなかったときの対処はAIが挙げた論文や文献が、実在しなかったで、もっともらしい偽の健康情報への備えはAIで作られた、もっともらしい健康情報にどう備える?で整理しています。
05よくある質問
AIで書かれた論文は、すべて偽物なの?
いいえ。AIで文章を整えただけの論文は偽物ではありません。2025年の研究では、2024年の生物医学の論文の要旨の少なくとも13.5%がAIを通して書かれたと推定されましたが、これは中身が偽物という意味ではありません。問題になるのは、行っていない研究やデータを本物のように書いた論文です。
専門家なら、AIで作った偽の論文を見抜ける?
見抜けないことがあります。2023年の研究では、ChatGPTが書いた医学論文の要旨の32%を、専門家が本物だと判断しました。一方で、偽の論文を詳しく読んだ専門家は、引用文献などの誤りに気づいていました。全文と引用を確かめることが手がかりになります。
偽の論文は、有名な雑誌には載らない?
載ることがあります。がん研究の論文を調べた2026年の研究では、論文工場の論文と特徴が似ていると判定された論文が、影響力の大きい雑誌にも含まれていました。雑誌の名前だけで判断せず、撤回の表示やほかの研究との一致も確かめます。
出典
- Gao, C. A., Howard, F. M., Markov, N. S., et al. (2023). Comparing scientific abstracts generated by ChatGPT to real abstracts with detectors and blinded human reviewers. npj Digital Medicine, 6, 75. https://doi.org/10.1038/s41746-023-00819-6
- Májovský, M., Černý, M., Kasal, M., Komarc, M., & Netuka, D. (2023). Artificial Intelligence Can Generate Fraudulent but Authentic-Looking Scientific Medical Articles: Pandora's Box Has Been Opened. Journal of Medical Internet Research, 25, e46924. https://doi.org/10.2196/46924
- Richardson, R. A. K., Hong, S. S., Byrne, J. A., Stoeger, T., & Amaral, L. A. N. (2025). The entities enabling scientific fraud at scale are large, resilient, and growing rapidly. Proceedings of the National Academy of Sciences, 122(32), e2420092122. https://doi.org/10.1073/pnas.2420092122
- Scancar, B., Byrne, J. A., Causeur, D., & Barnett, A. G. (2026). Machine learning based screening of potential paper mill publications in cancer research: methodological and cross sectional study. BMJ, 392, e087581. https://doi.org/10.1136/bmj-2025-087581
- Kobak, D., González-Márquez, R., Horvát, E.-Á., & Lause, J. (2025). Delving into LLM-assisted writing in biomedical publications through excess vocabulary. Science Advances, 11(27), eadt3813. https://doi.org/10.1126/sciadv.adt3813


