ロマンス詐欺の相手は、AIの写真で作られた人だった。それでも好きだった気持ちが消えない。研究では心の傷はお金より操られた感覚と結びつきやすく、「本当に好きになった」という再接触にも返事をしない

毎日やさしい言葉をくれた相手は、AIで作られた写真の、実在しない人だった。お金をだまし取られたことより、あの人がいなくなったことのほうがつらい。そう感じても、おかしくありません。ロマンス詐欺の被害者20人を調べた研究では、お金以外の影響が、お金の損失を上回ることが多かったと報告されています。手続きが一段落したあと、気持ちを立て直すために知っておきたいことを整理します。
3行でわかる
- 詐欺の被害者の心の影響を調べた21本の研究のまとめでは、心の傷はお金の問題が片づいたあとも続きやすく、金額より、気持ちを操られたことや裏切られた感覚と強く関連していました。
- ロマンス詐欺の手口を調べた50本の研究のまとめでは、偽の相手にAIで作った画像が使われることが増えており、被害のあとも「本当は好きになった」と連絡してくる再接触がよく見られました。
- 好きだった気持ちは、相手が作り込んだ関係への自然な反応です。再接触には返事をせず、同じ経験をした人や窓口とつながりながら、少しずつ区切りをつけます。
01 結論から言うと相手が偽物でも、好きな気持ちが消えないのはおかしい?
おかしくありません。相手は、あなたが好きになるように何か月もかけて関係を作り込んでいました。気持ちが本物だったのは、あなたの弱さではなく、手口がそう作られていたからです。消そうと急がず、区切りをつける順番を決めます。
ロマンス詐欺では、毎日のメッセージ、あなただけに向けた言葉、将来の約束が、時間をかけて積み重ねられます。そこで生まれた安心感や、誰かに大切にされている感覚は、あなたの中では本物でした。だから、相手が実在しないとわかっても、すぐに気持ちが切り替わらないのは自然なことです。
一方で、この時期は、もう一度狙われやすい時期でもあります。「詐欺だったけれど、本当に好きになった」という連絡は、関係を取り戻したい気持ちにつけ込む手口として研究で報告されています。気持ちを大事にすることと、相手に返事をしないことは、両立できます。
02 研究とデータでわかっていることロマンス詐欺の心の傷は、どのくらい残る?
お金が片づいたあとも続くことが多いとわかっています。21本の研究のまとめでは、心の傷は失った金額より、操られたことや裏切られた感覚と強く関連し、ロマンス詐欺では不安や思い出してしまうつらさが長引く例が報告されていました。
Baiら / 台湾・中国の医療機関や大学(2026年)[1]
大人の詐欺被害者の心の影響を調べた研究21本をまとめた系統的レビューです。被害は不安、落ち込み、心理的な苦しさ、恥ずかしさ、自分を責める気持ちと関連していました。心の傷は、お金の問題が片づいたあとも続くことが多く、金額の大きさより、気持ちを操られたことや裏切られた感覚、人を信じる気持ちが揺らいだことと強く関連していました。特にロマンス詐欺のように長く感情を操られた被害では、心配が続く、思い出したくないのに思い出す、安心感を取り戻しにくい、といった反応が報告されていました。ロマンス詐欺の被害者20人を調べた研究では、お金以外の影響が、お金の損失を上回ることが多かったとまとめられています。
対象: 研究21本(さまざまな国・手口の大人の被害者) / 限界: 研究のやり方がばらばらで、数字をまとめた分析はできていません。調査や聞き取りが中心で、著者らは西洋以外の地域の研究が足りないとしています。
Schokkenbroek, Snaphaan / デルフト工科大学など(2026年)[2]
ロマンス詐欺の手口を記述した研究50本をまとめ、準備から被害のあとまでを9つの場面に整理したレビューです。相手は、愛情をたっぷり示す、あなたに合わせた言葉で特別感を出す、周りから引き離す、といったやり方で、時間をかけて頼る気持ちを作っていました。偽のプロフィールには、AIで作った画像が使われることが増えていると報告されています。被害のあとも、詐欺だったと認めたうえで「本当に好きになった」と言って関係を続けようとする、第三者を装って「お金を取り戻す」と持ちかける、被害者の連絡先をほかの詐欺グループに回す、といった形で、くり返し狙われることがよくありました。
対象: 研究50本(被害者への聞き取り、警察の記録、やりとりの分析など) / 限界: 犯人側から直接話を聞いた研究はごく少なく、警察に届けられない被害も多いため、手口の全体像は限られています。AIを使った手口の実証研究はまだ少ないとされています。
Lawrence / 米国の詐欺被害者支援団体 FightCybercrime(2025年)[3]
ロマンス詐欺の被害者向けのオンラインの支え合いの会について、2024年に参加者67人に聞いた調査を報告した学会発表です。詐欺の相手と関わり始めた理由として、いちばん大きかったのは孤独で、次が手口の巧妙さを知らなかったことでした。87%が、会が役に立つ情報をくれたと答え、同じ経験をした人と話せることや、気持ちを受け止めてもらえることが助けになったという声がありました。
対象: 米国の支え合いの会の参加者67人 / 限界: 学会発表の要旨で、比べる組のない調査です。会に参加し続けた人の答えなので、合わなかった人の声は含まれていません。
03 まだわかっていないこと相手がAIだと、心の傷は違うの?
まだわかっていません。AIで作った写真や自動で返事をするチャットが使われ始めていることは報告されていますが、相手がAIだった場合に心の傷の大きさや回復のしかたが違うのかを調べた研究は見つかりませんでした。
- 相手が実在の人だった場合と、AIで作られた人だった場合で、つらさや回復のしかたが違うのか。
- どんな支えが回復に役立つのか。支え合いの会の効果を、比べる組を置いて確かめた研究は見つかりませんでした。
- 日本のロマンス詐欺の被害者の、被害のあとの心の状態を調べた研究。
04 今日からできること好きだった気持ちに、どう区切りをつける?
気持ちと手口を分けて書き出す、再接触には返事をしない、やりとりは消さずに見えない場所へ移す、同じ経験をした人や窓口とつながる、の4つです。区切りは一度でつかなくてかまいません。
「本物だった気持ち」と「作られた相手」を分けて書く
紙の左に「うれしかったこと・支えになっていたこと」、右に「相手がしていたこと(毎日の連絡、将来の約束、お金の話)」を書きます。左の気持ちは自分のもの、右は手口だと分けて見ると、自分を責める気持ちが少し離れます。
目安 1回15分
「本当に好きになった」という連絡には返事をしない
別の名前や新しいアカウントで連絡が来ることもあります。返事をせずに画面を残し、ブロックします。「お金を取り戻せる」という連絡も同じです。対応のしかたは相手の写真がAIで作られた顔だったときで整理しています。
目安 連絡が来るたび5分
やりとりは消さずに、ふだん見ない場所へ移す
警察への相談や手続きで、やりとりが必要になることがあります。消すかわりに、画面の記録をまとめてパソコンや別のフォルダに移し、毎晩読み返さないようにします。アプリの通知も切っておきます。
目安 30分
同じ経験をした人か、窓口とつながる
調査では、支え合いの会の参加者の多くが「役に立った」と答えていました。会が見つからなくても、責めずに聞いてくれる人か窓口に1か所だけ話します。周りに責められそうで話せないときはだまされた自分を責めてしまうときも参考にしてください。
目安 週1回
警察相談専用電話(#9110): 相手からまた連絡が来る、脅されているなど、犯罪かどうかわからない段階の相談。受付は平日の日中が基本で、時間は都道府県で異なります。身の危険を感じたら110番。
こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556): 眠れない、気持ちのつらさが続くとき。
失ったお金で暮らしが苦しいときの公的な制度は、AIを使った詐欺でお金を失い、暮らしが苦しいときで整理しています。
05よくある質問
詐欺だとわかっても、まだ相手を信じたいのはなぜ?
相手が何か月もかけて、頼る気持ちを作っていたからです。研究のまとめでは、愛情を大げさに示す、あなたに合わせた言葉で特別感を出す、周りから引き離すといった手口が報告されています。信じたい気持ちが残るのは、その関係があなたにとって大切だった証拠で、愚かだからではありません。
「詐欺だったけど本当に好きになった」と連絡が来た。本当の可能性は?
見分けることはできないため、返事をしないのが安全です。研究のまとめでは、詐欺を認めたうえで本当の気持ちがあるふりをして関係を続け、またお金を求める手口がよく見られました。気持ちが揺れたら、返事をする前に誰か1人に相談します。
また誰かを好きになるのが怖い。どうすればいい?
怖くなるのは自然な反応です。研究のまとめでは、被害のあとに人を信じにくくなることが報告されています。急いで新しい出会いを探さず、まずは家族や友人など、顔を知っている人とのつながりを少しずつ取り戻します。新しく出会う相手には、会ったことのないうちはお金の話に応じない、という自分のルールを決めておくと安心につながります。
出典
- Bai, J., Ho, M.-H., Sung, H.-T., Hung, C.-S., & Tsai, J.-H. (2026). Mental health and psychosocial sequelae of fraud victimization: a systematic review. Frontiers in Psychology, 17, 1805536. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2026.1805536
- Schokkenbroek, J. M., & Snaphaan, T. (2026). Love as Bait: A Scoping Review and Crime Script Analysis of Online Romance Scams. Trauma, Violence, & Abuse, 27(4), 1877–1893. https://doi.org/10.1177/15248380251361046
- Lawrence, J. (2025). The Role of Online Peer Support Groups in the Recovery of Romance Fraud Victims. Innovation in Aging, 9(Suppl 2), igaf122.658(学会発表の要旨). https://doi.org/10.1093/geroni/igaf122.658
- 警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)」 https://www.npa.go.jp/bureau/criminal/souni/tokusyusagi/sagi_keihatsu2025.pdf
- 政府広報オンライン「警察に対する相談は警察相談専用電話『#9110』番へ」 https://www.gov-online.go.jp/article/201309/entry-7508.html
- 厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/kokoro_dial.html


