迷ったとき、AIに「どうするのが正しい?」と聞くと答えに流される?研究では、同じ問いでも賛成と反対の答えが出て、読んだ人の判断はその向きに動き、8割は「助言がなくても同じだった」と答えていた

友だちに本当のことを言うべきか、頼まれごとを断っていいか。答えのない迷いを、AIに「どうするのが正しい?」と聞く人は少なくありません。AIはすぐに、筋の通った答えを返してくれます。けれど、その答えに自分の判断がどれだけ動かされているかは、自分では気づきにくいことが研究でわかってきました。
3行でわかる
- 2022年の実験では、ChatGPTは「1人を犠牲にして5人を救うのは正しいか」という同じ問いに、聞き方しだいで賛成も反対も答えました。
- その答えを読んだ米国の767人の判断は、助言の向きに動きました。助言の主がAIだと知っていても、動き方はほとんど変わりませんでした。
- それでも8割の人が「助言がなくても同じ判断をした」と答えていました。賛成と反対の理由を両方聞くなど、流されにくい聞き方があります。
01 結論から言うとAIの道徳の助言に、判断は流される?
流される可能性があります。実験では、AIの助言を読んだ人の判断は助言の向きに動き、相手がAIだと知っていても同じでした。しかも本人は、その影響を小さく見積もっていました。
ここでいう道徳の助言とは、「どちらが正しいか」「どうするべきか」に答える助言のことです。計算や事実と違い、決まった正解がありません。だからこそ、筋の通った説明を一つ示されると、それが自分の考えのように感じられやすくなります。
AIとの議論で考えが変わる研究は、AIと話していたら、考えが変わっていたで整理しています。この記事は、正解のない「どうするべきか」を聞く場面に絞ります。
02 研究とデータでわかっていることAIの答えは、どのくらいぶれる?
同じ問いでも答えが割れることがあります。2022年のChatGPTは聞き方しだいで賛成と反対の両方を答え、2024年の2つのモデルでも、同じ問いへの答えの割合は大きく違いました。
Krügel ら(2023)[1]
研究者がChatGPTに「1人を犠牲にして5人を救うのは正しいか」を言い方を変えて聞くと、賛成する答えと反対する答えの両方が返ってきました。その答えを読んでから判断した人は、賛成の助言を読むと犠牲を認めやすく、反対の助言を読むと認めにくくなりました。助言の主を「ChatGPT」と明かしても「道徳の助言者」としても、効き方はほぼ同じでした。
対象: 米国在住の1,851人を募集し、助言の主と内容を正しく答えられた767人(平均39歳)を分析。2022年12月のオンライン実験、事前登録あり / 限界: トロッコ問題という作られた場面での判断で、実際の生活の決断ではありません。使ったのは公開直後の2022年のChatGPTの答えです。
この研究で目を引くのは、本人の自覚です。「助言がなくても同じ判断をしたか」と聞くと、80%が「同じだった」と答えました。ところが、その人たちが答えた「助言がなかった場合の判断」も、読んだ助言の向きにそろっていました。研究者は、人がAIの助言の影響を小さく見積もっていると結論づけています[1]。
同じ問いを「ほかの参加者なら同じ判断をしたか」と聞くと、「同じ」と答えたのは67%でした。また79%が、自分はほかの人より倫理的だと答えていました。人は、自分の考えは他人より揺らがないと思いやすいようです[1]。
Pfeffer ら(2025)[2]
2024年のChatGPTの2つのモデルに、トロッコ問題と歩道橋問題を1,000回ずつ聞きました。トロッコ問題で「レバーを引く」と答えた割合は、GPT-4oでは41.5%(「引かない」30.7%、どちらとも言わない26.1%)、o1-miniでは99.2%でした。人を橋から突き落とす歩道橋問題では、GPT-4oは89.0%が「突き落とさない」と答え、o1-miniは40.1%が「突き落とす」と答えました。
対象: GPT-4o(2024年8月版)とo1-mini(2024年9月版)への各1,000回の質問 / 限界: 「はい」か「いいえ」だけで答えさせた短い論評で、人への影響は調べていません。モデルは更新され続けるため、今の答えは違う可能性があります。
Meincke ら(2026)[3]
新聞の倫理相談コラムに寄せられた悩みに、専門家とAI(GPT-4)が書いた助言を比べてもらうと、役に立つ度合いは同じくらいと評価されました。助言を読む前は、人の専門家の助言を選んだ割合が72.6%でした。AIの助言の中身を読んだあとは53.2%に下がり、どちらが書いたか伏せると46.3%でした。
対象: 一般の人・MBAの学生・研究者や聖職者など187人の予備研究と、642人の事前登録した実験 / 限界: 扱ったのは1つの新聞コラムの悩み20件で、あらゆる道徳の判断に当てはまるとは限りません。
3つの研究から見えるのは、次のことです。
- AIの道徳の答えは、聞き方やモデルの版によって大きく割れることがある[1][2]。
- それでもAIの助言は、読んだ人の判断を動かし、本人はその影響に気づきにくい[1]。
- AIの助言は中身を読むと「役に立つ」と感じられやすく、読む前の警戒は薄れていく[3]。
03 まだわかっていないこと日常の悩みでも、同じように流される?
まだわかっていません。研究の多くは作られた道徳の問題や新聞の倫理相談を使ったもので、実際の生活の決断でAIの助言がどれだけ影響するかは、ほとんど調べられていません。
- 実験の場面は、トロッコ問題や新聞の倫理相談です。家族や仕事など、自分のことの決断で同じように動くかは確かめられていません。
- 流された判断が、そのあと何日も続くのか、すぐ元に戻るのかはわかっていません。
- 影響を受けた実験で使われたのは2022年のAIです。今のAIは答え方が変わっている可能性があり、新しい版で人への影響を測った研究は、今回の調査では見つかりませんでした。
- 研究者は「賛成と反対の理由を両方聞く」ことを対策の例に挙げていますが、それで流されにくくなるかを試した研究は、今回の調査では見つかりませんでした。
わかっているのは、「AIの答えはぶれることがあり、それでも判断は動く」ことまでです。だから、AIを使わないことより、流されにくい聞き方をしておくことが現実的です。
04 今日からできること流されにくくするには、どう聞けばいい?
聞く前に自分の考えを一行書き、AIには「どうするべきか」ではなく賛成と反対の理由を両方たずねます。大事な決断は、AIの答えを持って人にも相談します。
聞く前に、自分の考えを一行書いておく
「今の自分はこうしたい、理由はこれ」とメモしてからAIに聞きます。研究では、人は助言の影響に気づきにくかったので、前の考えを残しておくと、どこが動いたかを見比べられます。
目安 1分
「どうするべき?」ではなく「賛成と反対の理由を両方」と聞く
一つの結論を求めず、両方の立場の理由を並べてもらいます。研究者が挙げた対策の一つで、AIに別の考え方を出してもらう聞き方です。
目安 1回の質問
言い方を変えて、もう一度聞く
同じ悩みを別の言葉で聞き直し、答えの向きが変わるかを見ます。研究では、言い方を変えただけで逆の答えが出ました。答えが割れたら、それは「正解が一つではない問題」だというしるしです。
目安 2〜3分
大事な決断は、AIの答えを持って人に話す
関わる人や信頼できる人に、AIの答えも見せながら相談します。AIの答えを「一つの意見」として並べるだけでも、ほかの見方に気づくきっかけになります。
目安 決める前に1回
AIと人の判断の組み合わせ方は、AIと一緒に決めれば、間違いは減る?にまとめています。AIの答えと自分の意見が違って不安になるときは、姉妹メディアのAIと意見が違うと、自分が間違っている気がするも参考になります。
05よくある質問
AIに「どうするのが正しい?」と聞くのはよくないこと?
よくないとは言えません。米国の実験では、AIの助言を読むと判断が助言の向きに動き、本人はその影響を小さく見積もっていました。使うなら、自分の考えを先にメモし、賛成と反対の理由を両方たずねるなど、答えを一つの意見として扱う聞き方が役に立ちます。
相手がAIだとわかっていれば、流されない?
2022年の米国の実験では、助言の主をChatGPTと明かしても、「道徳の助言者」として示した場合と効き方はほぼ同じでした。研究者は、AIだと知らせるだけでは十分ではないと述べています。
AIの道徳の答えは、毎回同じ?
同じとは限りません。2022年の実験では、ChatGPTは言い方を変えた同じ問いに、賛成と反対の両方を答えました。2024年の2つのモデルに同じ問いを1,000回ずつ聞いた研究でも、答えの割合はモデルによって大きく違いました。
AIの倫理相談の答えは、専門家より役に立たない?
研究では、役に立つ度合いは同じくらいと評価されました。新聞の倫理相談コラムの悩みに対する専門家とAIの助言を比べると、読んだ人の評価に大きな差はありませんでした。ただし、役に立つと感じることと、その答えが自分にとって正しいかは別の問題です。
出典
- Krügel S, Ostermaier A, Uhl M (2023). ChatGPT's inconsistent moral advice influences users' judgment. Scientific Reports, 13, 4569. https://doi.org/10.1038/s41598-023-31341-0
- Pfeffer J, Krügel S, Uhl M (2025). Does a Smarter ChatGPT Become More Utilitarian? Science and Engineering Ethics, 32(1), 1. https://doi.org/10.1007/s11948-025-00579-4
- Meincke L, Nave G, Terwiesch C (2026). Advice quality and source disclosure shape trust in AI-generated ethical advice. Scientific Reports, 16, 11868. https://doi.org/10.1038/s41598-026-44258-1


